「ベートーヴェン・ツィクルス」に寄せて
日本フィルハーモニー交響楽団と、その首席指揮者ピエタリ・インキネン。両者の関係が、いま最もホットな段階を迎えているのは間違いない。
今年4月には、同団13年ぶりのヨーロッパ・ツアーを実現した。フィンランド、オーストリア、ドイツ、英国。いずれの公演も「日本のオーケストラだから」という差引勘定なしに評価されたと聞く。ひとつには、インキネン自身がフィンランド出身であり、またドイツで、チェコで、それ以前にはニュージーランドでキャリアを積み、すでに世界的に認められているからであろう。これはツアー後のことだが、あのバイロイト音楽祭にも、2020年の夏に出演することが決まった。
しかしそれ以上に、彼がこの過程と並行して、そう、文字どおり「並行」して、日本フィルとともに成長した結果ではなかろうか? 首席客演指揮者時代から数えれば、ほぼ10年におよぶ間柄である。その間、彼は、自身の本命ともいうべきドイツ音楽への感性と理解を、より深めることができた。ワーグナー、ブラームス、ブルックナーとの集中的な取り組みを思い出そう。
こうした文脈に置いて見れば、今度の「ベートーヴェン・ツィクルス」が、単なるアニヴァーサリー企画に留まるものでないことは明らかだ。
実際、全公演は、ベートーヴェン生誕250年にあたる2020年に詰め込まれてはいない。その前年から、すなわち今秋から始まり、首席指揮者としての現契約が終わりを迎える2021年まで、じっくりと進められる。しかも、交響曲9作と主要な協奏曲に加えて、序曲も同じ作曲家で埋めつくし「ベートーヴェン祭り」という形にしない。なかでもチェコのドヴォルジャークの作品、しかもあまり演奏されない作品が加わっている点は、目を引くであろう。
もちろんそこには、2015年から首席指揮者の座にあるプラハ交響楽団と得た成果を披露する意図もあるに違いない。しかし同時にこれは、ベートーヴェンの歴史的「射程」を証す試みともなるはずである。ドヴォルジャークがチェコ国民楽派の一員だったとしても、そこに至るまでには、ベートーヴェン音楽に学んだプロセスがあった。また、劇音楽に心血を注いだ彼は、ワーグナーからも多大な影響を蒙っているのだが、ワーグナー自身は、自分の楽劇がベートーヴェン交響楽の「正嫡」であると主張していた。そして実際、そうなのだ。微細なモチーフが楽曲全体に重要な意味と展開をみせる様を、よく考えてみて欲しい。
そのワーグナーが無ければ、さらにまた本ツィクルスに組み込まれたブルックナーの交響曲も、R.シュトラウスの交響詩もあり得なかったわけで、これはことほど左様に意味深い、インキネン&日本フィルの集大成たる「ベートーヴェン・ツィクルス」なのである。
作曲当時の奏法、いわゆる「ピリオド奏法」を採り入れるのが、なかば常識化した観のある昨今。そんな中で、「『ヴィブラートかノン・ヴィブラートか』といった無意味な議論と無縁です」(『音楽の友』9月号、池田卓夫氏との対談より)と言い放つあたりも、静かなるマエストロ、インキネンの、熱い心意気を窺わせる。楽しみにしたい。
舩木篤也(音楽評論家)
公演日程
第725回東京定期演奏会
2021年3月5日 (金) 19時
2021年3月6日 (土) 14時
サントリーホール
指揮
ピエタリ・インキネン
[首席指揮者]
オーボエ
杉原由希子[首席奏者]
ベートーヴェン
交響曲第6番 ヘ長調 op.68 《田園》
R.シュトラウス
オーボエ協奏曲 ニ長調
R.シュトラウス
交響詩《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》
第365回横浜定期演奏会
2021年3月13日 (土) 17時
神奈川県民ホール
指揮
ピエタリ・インキネン
[首席指揮者]
ピアノ
ルーカス・ヴォンドラチェク
ドヴォルジャーク
歌劇《カーチャと悪魔》序曲
ドヴォルジャーク
ピアノ協奏曲 ト短調 op.33
ドヴォルジャーク
交響曲第9番 ホ短調 op.95 《新世界より》
第368回横浜定期演奏会
2021年5月21日 (金) 19時
ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮
ピエタリ・インキネン
[首席指揮者]
ソプラノ:ダニエラ・ケーラー
アルト:アネリー・ペーボ
テノール:サイモン・オニール
バリトン:ボンガニ・ジャスティス・クベカ
合唱:東京音楽大学
ベートーヴェン
歌劇《フィデリオ》op.72より抜粋
交響曲第9番 ニ短調 op.125 《合唱》
第392回名曲コンサート
2021年5月23日 (日) 14時
サントリーホール
指揮
ピエタリ・インキネン
[首席指揮者]
ソプラノ:ダニエラ・ケーラー
アルト:アネリー・ペーボ
テノール:サイモン・オニール
バリトン:ボンガニ・ジャスティス・クベカ
合唱:東京音楽大学
ベートーヴェン
歌劇《フィデリオ》op.72より抜粋
交響曲第9番 ニ短調 op.125 《合唱》
第730回東京定期演奏会
2021年5月28日 (金) 19時
2021年5月29日 (土) 14時
サントリーホール
指揮
ピエタリ・インキネン
[首席指揮者]
アルト
アネリー・ペーボ*
テノール
サイモン・オニール*
ワーグナー
楽劇《パルジファル》より 抜粋*
R.シュトラウス
アルプス交響曲 op.64
終了した公演
2019年4月ヨーロッパ公演 |
第719回東京定期演奏会 |
第346回横浜定期演奏会 |
第711回東京定期演奏会 |
第348回横浜定期演奏会 |
第381回名曲コンサート |
第714回東京定期演奏会 |
第351回横浜定期演奏会 |
第382回名曲コンサート 2019年10月27日(日) サントリーホール 指揮:ピエタリ・インキネン[首席指揮者] ピアノ:アレクセイ・ヴォロディン 【ベートーヴェン生誕250年Vol.2】 ベートーヴェン:交響曲第1番 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番 ドヴォルジャーク:交響曲第8番 |
第336回横浜定期演奏会 |
第699回東京定期演奏会 |
第338回横浜定期演奏会 |
第701回東京定期演奏会 |
第704回東京定期演奏会 |
第687回東京定期演奏会 |
第689回東京定期演奏会 |
第326回横浜定期演奏会 |
第101回さいたま定期演奏会 |
第327回横浜定期演奏会 |
杉並公会堂シリーズ第1回 |
第690回東京定期演奏会 |
第695回東京定期演奏会 |
第332回横浜定期演奏会 |
第316回横浜定期演奏会 |
第679回東京定期演奏会 |
首席指揮者就任披露演奏会 |
第306回横浜定期演奏会 |
第669回東京定期演奏会 |
杉並公会堂シリーズ第4回 |
第312回横浜定期演奏会 |
第6回相模原定期演奏会 |
杉並公会堂シリーズ2013第6回 |
<第39回九州公演> 2014年2月8日 アクロス福岡 シンフォニーホール
2014年2月9日 宝山ホール(鹿児島)
2014年2月10日 唐津市民会館 大ホール
2014年2月11日 大牟田文化会館大ホール
2014年2月13日 佐賀市文化会館 大ホール
2014年2月14日 熊本県立劇場 コンサートホール
2014年2月15日 アルモニーサンク北九州ソレイユホール
2014年2月16日 長崎ブリックホール
2014年2月18日 iichikoグランシアタ(大分)
2014年2月19日 メディキット県民文化センター(宮崎) |
<ピエタリ·インキネンのシベリウス·チクルスVol.1> |
<ピエタリ·インキネンのシベリウス·チクルスVol.2> |
<ピエタリ·インキネンのシベリウス·チクルスVol.3> |
フェスタサマーミューザKAWASAKI2013 |
第653回東京定期演奏会 |
【マーラー撰集Vol.3】 |
【マーラー撰集Vol.2】 第633回東京定期演奏会 |
【マーラー撰集Vol.1】 |
宇都宮第九合唱団 |
さいたま第九演奏会 |
第九特別演奏会2010 |
第613回東京定期演奏会 |
第176回サンデーコンサート |
第236回横浜定期演奏会 |
メディア情報
2020年5月13日 | 【重要】6月1日 5日 6日 10日 13日 日本フィル主催公演中止のお知らせ |
2020年3月24日 | ピエタリ・インキネン、アレクサンドル・メルニコフ 来日中止のお知らせ |
2020年3月03日 | 【記事掲載】『東京人』2020年4月号 表紙にインキネン&山田和樹! |
2019年11月25日 | 【記事掲載】毎日新聞クラシックナビ「ベートーヴェン・ツィクルスへの思い ピエタリ・インキネンに聞く(下)」 |
2019年11月19日 | 【記事掲載】毎日新聞クラシックナビ「バイロイトにかける思い ピエタリ・インキネンに聞く(上)」 |
2019年9月18日 | 【公式】【謹告】第358回横浜定期演奏会(2020年6月)内容変更のお詫びとお知らせ |
2019年7月25日 | 【公式】ピエタリ・インキネン 2020年バイロイト音楽祭 ワーグナー《ニーベルングの指環》指揮に決定! |
【公式】テレビマンユニオンチャンネル一覧 |
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2019年10月28日 | 【公式】首席指揮者ピエタリ・インキネン 10/18 東京定期アフタートーク |
2019年10月28日 | 【公式】首席指揮者ピエタリ・インキネン 10/19 東京定期プレトーク |
2019年10月28日 | 【公式】首席指揮者ピエタリ・インキネン 10/26 横浜定期オーケストラ・ガイド |
2019年10月25日 | 【掲載情報】いま注目の指揮者が日本フィルとベートーヴェン(ぴあニュース) |
2019年10月15日 | 【公式】10月ソリスト アレクセイ・ヴォロディンさんからのメッセージ |
2019年9月28日 | 【公式】10月定期公演はインキネンがトークに登場します! |
2019年9月2日 | 【公式】サラサーテ10月号 ピエタリ・インキネンが表紙に登場! |
2019年8月7日 | 【公式】ピエタリ・インキネン 朝日新聞、日経新聞 |
2019年7月19日 | 【公式】【掲載情報】ピエタリ・インキネン『音楽の友』8月号表紙に登場! |
2019年6月14日 | 【公式】ピエタリ·インキネン記者会見 ~ヨーロッパ公演報告・次シーズンに向けて |
2018年11月30日 | |
2018年9月11日 | |
2018年6月22日 | |
2017年3月17日 | |
2017年3月8日 | |
2017年3月7日 | |
2016年10月20日 | |
2016年10月14日 | |
2016年9月26日 | |
2016年9月26日 | |
2016年9月17日 | 【公式】ピエタリ・インキネン、ザールブリュッケン=カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に決定 |
2016年5月9日 |
Photo
プロフィール
ピエタリ・インキネン[日本フィル首席指揮者] Pietari Inkinen, JPO Chief Conductor
世界各地で活躍の場を広げ注目を集めるインキネン。現在、日本フィルハーモニー交響楽団、プラハ交響楽団、ザールブリュッケン・カイザースラウテルンドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務める。これまでに、ニュージーランド交響楽団音楽監督を8年間務めたほか、ミュンヘン・フィル、スカラ・フィル、ロサンゼルス・フィル、イスラエル・フィル、バイエルン放送響、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、フランス放送フィル等に客演。オペラの分野においても、ベルリン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場、ドレスデン国立歌劇場をはじめ、各国のオペラ・ハウスに出演。
昨シーズンは、ケルン・ギュルツェニヒ管、ハンブルク北ドイツ放響、フィンランケルン・ギュルツェニヒ管、ハンブルク北ドイツ放響、フィンランド歌劇場の《蝶々夫人》におけるデビュー、BBCフィル、フィンランド放響等との共演し好評を博した。録音は、ニュージーランド交響楽団『シベリウス:交響曲全曲』、日本フィルハーモニー交響楽団『シベリウス:交響曲全集』『ブラームス:交響曲第1番』(ナクソス)、サイモン・オニール/ニュージーランド交響楽団『父と子~ワーグナー:アリア集』(EMI)などがある。
フィンランド出身。シベリウス音楽院でヨルマ・パヌラ、レイフ・セーゲルスタムらに、また、ヴァイオリンをザハール・ブロンに師事。