秋山和慶 第741回東京定期演奏会指揮者インタビュー

第741回東京定期演奏会、指揮者にインタビュー!

聞き手:岩野裕一

50年ぶりの日本フィル東京定期登場となる秋山和慶マエストロ!究極のフレンチ・プロ

―マエストロにとって、日本フィルの東京定期に出演するのは50年ぶりとなるが、数年前には「さいたま定期」でベートーヴェンを演奏しているほか、秋山さんが広島交響楽団の音楽監督だったときにコンサートマスターだった田野倉雅秋さんをはじめ、よく知るメンバーも多いので、普段通りにリハーサルに臨みます、と秋山さんは語る。

今回、フランス音楽を、というのは、オーケストラと相談して決めたわけですが、ロシアものはラザレフさん、ベートーヴェンやシベリウスはインキネンさんがいらっしゃるので、だったら思い切って全部フランスものでやってみよう、ということになりました。ドビュッシーも、ラヴェルも、子どものときからSPレコードで聴いて、大好きだったんですよ。
《ダフニスとクロエ》の第2組曲は、1964年に東京交響楽団でデビューするときの特別演奏会で指揮した、思い入れのある曲です。このときは、当時の楽団長だった橋本鑒三郎さんが「何でも好きな曲をやっていいぞ」と言ってくださって、前半にブラームスの交響曲第2番、後半にチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を潮田益子さんが弾いて、最後が《ダフニス》というプログラムでした。
なぜこのとき《ダフニス》を選んだかというと、まだ桐朋の学生だった1962年に、フランスの巨匠シャルル・ミュンシュが日本フィルにやってきて、フジテレビのスタジオでやっていたリハーサルを見学させてもらったんです。ステージマネージャーのマーちゃんこと、宮崎隆男さんがスタジオの隣のロッカールームに入れてくれて、「ここからなら、よく見えるから」と、ロッカーの隙間から覗き込んだのですが(笑)、ミュンシュが振り始めると、長い指揮棒がしなって、風を切るビュンという音が聴こえてきたのにはびっくりしました。ミュンシュはこのとき日本フィルと《ダフニス》をやっていて、その直前には先輩だった小澤さんもN響でやはり《ダフニス》を演奏していたので、いつか自分も指揮してみたいと思っていたのです。
東響デビューで取り上げた直後に、アンドレ・クリュイタンスとパリ音楽院のオーケストラが来日して《ダフニス》をやったのですが、これには衝撃を受けました。まだオーケストラがインターナショナルな響きになる前の、昔ながらのフランスの楽器を使った独特の音でしたが、ラヴェルの音楽がまるで総天然色で聴こえてきたんです。

―1964年に桐朋学園大学を卒業して東京交響楽団の指揮者になったとたん、経営が破たんして橋本楽団長が自ら命を絶つという事件が起きて、秋山さんは自主運営になった東響と共に苦難の道を歩んだ。

そのときの東響は本当にお金がなかったから、ほとんどの公演をひとりで指揮していましたが、ぼくはまだ若かったから「指揮者の給料はあと回しだ!」なんて言われてね。そんなときに日本フィルには何度も定期を振らせてもらって、ずいぶん助けていただきました(笑)。いまでは考えられないでしょうが、東響と日本フィル、東京文化会館での同じ月の定期演奏会を指揮したこともありました。

―当時の記録によれば、秋山さんは1969年から72年にかけて日本フィルの定期演奏会に9回出演して、多彩なレパートリーを披露している。また、それに先立つ1966年に、小澤征爾さんがオネゲルのオラトリオ《火刑台上のジャンヌ・ダルク》を取り上げた際には、副指揮者として公演に関わっている。演奏会記録を見ながら、思い出話に花が咲いた。

《ジャンヌ・ダルク》のときは、海外に行っていた小澤さんが前日のリハーサルしかできない、ということで、私が全部稽古をつけておきました。会場にやってきた小澤さんが「秋山くん、全部聴かせてよ」とおっしゃるので通して演奏したら、「いいねぇ」と言ってくれたので、やれやれと思っていたら、舞台演出の浅利慶太さんが「ダメだ、ダメだ!」と突然大声を出されてね。まあこれは、こうやって緊張感を高めようという、浅利さん一流のブラフだったのでしょう。
いろんなソリストと共演させてもらいました。ピアノの内田光子さん、チェロの堤剛さん、ヴァイオリンの前橋汀子さん、みなさんいまも第一線で活躍されているのは素晴らしいですね。ベルクを弾いたクリスチャン・フェラスとは、このときは大阪フィルでもご一緒してブラームスをやりました。フルートのガッゼルローニなんて、懐かしいなぁ。
 当時の日本フィルには、フルートの峰岸壮一さん、オーボエの鈴木清三さん、ティンパニの山口浩一さんなど、桐朋で学生時代の先生だった方々がプレイヤーの中にたくさんおられて、近しい気持ちもした反面、ちょっと怖くもありました。そうした先生方は、のちに新日本フィルに移られるわけですが、日本フィルと新日本フィルが分かれる前の年、71年の年末にべートーヴェンの《第9》公演で、日本フィルの組合がストライキをやったことがありましたね。このとき中止になった演奏会は、実は私が指揮する予定だったんですよ。

―このインタビューの場には日本フィルの平井理事長も同席し、楽団を代表して、今回の50年ぶりの客演に心からの謝意を表した。

あれから50年ですか。すべては時代のうねりだったような気がします。日本フィルと共に歩まれた渡邉暁雄先生は、80年代初頭には広島交響楽団の初代の音楽監督になられて、広響が大きく飛躍するきっかけを作られましたが、私はその後、広響と深いつながりを持つようになりました(首席指揮者、音楽監督を経て、現在は終身名誉指揮者)。
東響にしても、広響にしても、日本でオーケストラを続けることには大変な苦労が伴いますが、お客様によい演奏をお届けして、喜んでいただくのが私たちの使命であり、私たちにとっても喜びだと思っています。
日本フィルの皆さんと、よい音楽を一緒にできることを、楽しみにしています。

(2022年5月30日、東京都内で)

<公演情報>
第741回東京定期演奏会 サントリーホール
2022年6月17日(金)19時、18日(土)14時開演 
※土曜日は13時30分より岩野裕一氏によるプレトークあり!

指揮:秋山和慶 ピアノ:小川典子
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
フォーレ:組曲《ペレアスとメリザンド》op.80
     前奏曲、糸を紡ぐ女、シシリエンヌ、メリザンドの死
ラヴェル:《ダフニスとクロエ》第2組曲
https://japanphil.or.jp/concert/24687

※6月18日はライブ&アーカイブ配信あり
https://members.tvuch.com/

 

<秋山和慶=日本フィル 定期演奏会出演記録>
第119回東京定期演奏会 1966年04月20日 東京文化会館 
指揮:小澤征爾 秋山和慶(副指揮)
ジャンヌ:斎藤昭子 修道士ドミニク:水島弘 聖女マリア:阿部冨美子
マルグレット:滝沢三重子 カテリーヌ:戸田敏子
浅利慶太(舞台)
合唱:二期会合唱団、東京混声合唱団、ビクター少年合唱団
オネゲル:オラトリオ《火刑台上のジャンヌ・ダルク》

第179回東京定期演奏会 1969年04月22日 東京文化会館 
指揮:秋山和慶 ピアノ:荒 憲一
ハイドン:交響曲第88番 ト長調 Hob.I:88
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 op.15
レスピーギ:交響詩《ローマの祭》

第195回東京定期演奏会 1970年02月26日 東京文化会館 
指揮:秋山和慶 ピアノ:内田光子
ベートーヴェン:バレエ音楽《プロメテウスの創造物》 op.43 より 序曲、第8番 (アレグロ・コン・ブリオ)、第16番 (フィナーレ/アレグレット)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 op.58
ベートーヴェン:交響曲第8番 へ長調 op.93

第198回東京定期演奏会 1970年04月10日 東京文化会館 
指揮:秋山和慶 ホルン:田中正大
メンデルスゾーン:交響曲第3番 イ短調 op.56 《スコットランド》
R.シュトラウス:ホルン協奏曲第1番 変ホ長調 op.11
ヒンデミット:ウェーバーの主題による交響的変容

第210回東京定期演奏会 1970年12月19日 日比谷公会堂
指揮:秋山和慶 チェロ:堤 剛
バーバー:序曲《悪口学校》 op.5
ストラヴィンスキー:バレエ音楽《カルタ遊び》
リャードフ:交響詩《キキモラ》 op.63
エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 op.85

第218回東京定期演奏会 1971年04月14日 日比谷公会堂 
指揮:秋山和慶 ヴァイオリン:クリスティアン・フェラス オルガン:島田麗子
ドビュッシー:管弦楽のための《映像》 より 「イベリア」
ベルク:ヴァイオリン協奏曲 《ある天使の思い出に》
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 op.78《オルガン付》

第219回東京定期演奏会 1971年04月27日 日比谷公会堂
指揮:秋山和慶 ピアノ:リリー・クラウス
J.C.バッハ:シンフォニア 変ロ長調 op.18-2
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466
R.シュトラウス:交響詩《英雄の生涯》 op.40

第227回東京定期演奏会 1971年10月29日 東京文化会館 
指揮:秋山和慶 フルート:セヴェリーノ・ガッゼルローニ
バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 Sz.106
タルティーニ:フルート協奏曲 ト長調
ペトラッシ:フルート協奏曲
シベリウス:交響曲第1番 ホ短調 op.39

第228回東京定期演奏会 1971年11月12日 東京文化会館 
指揮:秋山和慶 ピアノ:ミッシャ・ディヒター
R.シュトラウス:交響詩《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》 op.28
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 op.73 《皇帝》
矢代秋雄:交響曲 (日本フィル・シリーズ第1作)

第239回東京定期演奏会 1972年04月24日 東京文化会館 
指揮:秋山和慶 ヴァイオリン:前橋汀子 合唱:東京混声合唱団
ヴォーン・ウィリアムズ:タリスの主題による幻想曲
ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ調
ホルスト:組曲《惑星》 op.32

第86回さいたま定期演奏会 2014年11月07日 ソニックシティ
指揮:秋山和慶 ピアノ:小山実稚恵
ウェーバー:オベロン序曲
ショパン:ピアノ協奏曲第1番
ベートーヴェン:交響曲第7番