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藤岡幸夫が語る1月公演―Cocomiさんとの初共演、映像と音楽

2024.12.26

1月の日本フィルハーモニー交響楽団は指揮者・藤岡幸夫とフルートのCocomiを迎えて映像を彩った名曲とモーツァルトのフルート協奏曲第2番という華やかなプログラムを披露する。

オーケストラが奏でるのは武満徹の組曲《波の盆》とミシェル・ルグランの交響組曲《シェルブールの雨傘》。武満といえば日本を代表する作曲家として没後28年経った今なお世界中で演奏され、若い演奏家、聴衆からも愛されている。その音楽は調性がなくともメロディアスな響きで、現代音楽の難解といったイメージとは一線を画している。氏は無類の映画好きでも知られており、映画音楽はもとより、テレビドラマやポップソングなど作品は多岐にわたっている。
今回演奏されるのは1983年のテレビドラマ「波の盆」(脚本:倉本聰、監督:実相寺昭雄)のために武満が書いた音楽を組曲にしたもの。ストーリーは日系ハワイ移民の主人公(笠智衆)が亡き妻(加藤治子)の幻と人生を回想するシーンを軸に、パールハーバーの奇襲をきっかけに米国側に立つ息子(中井貴一)との間に生じるアイデンティティの乖離、家族が戦争によって引き裂かれる悲劇、会えなくとも伝えたかった家族への想いなどが描かれている。
そのテーマ曲は故郷に想いを馳せる時の胸が熱くなる想いや、必ずしも思い通りにはいかない、それでも新しい日々を積み重ねていく人々を優しく包んでくれる愛にあふれている。

藤岡 「この曲は、武満さんの現代音楽のイメージからは遠くすごく聴きやすい。だけど武満さんの作品が持つ独特の空気感、決して濃密でなく、無駄なものが削ぎ落とされている、そのあたりを楽しんでもらいたい」

組曲ではテーマ以外にも様々なシーンの音楽が演奏されるが、映像の中でその音楽は吐息のように自然に存在し、登場人物の心の揺らぎに寄り添い、温もりを沿える。

藤岡 「武満さんの作品だって知って聴いたら武満さんらしさはあるけど、こういうメロディーを書くのかと驚くんじゃないかなあ。知らずに聴いたら、誰?この綺麗な曲書く人って、武満さんだとわからないと思う」

武満徹という作曲家の残した珠玉のメロディーに触れるまたとない機会だろう。

もう一つの映像音楽がルグランの交響組曲《シェルブールの雨傘》だ。ルグランといえば、数々の映画音楽を手がけているが、世界的な名声を得たのは64年公開の「シェルブールの雨傘」。全編セリフを歌うミュージカル映画で、ヒロインのカトリーヌ・ドヌーブの輝きは今なお色褪せない。ルグラン自身はパリ国立高等音楽院で音楽を学び、クラシックはもとより、モダンジャスにも傾倒し58年のアルバム「ルグラン・ジャズ」ではマイルス・デイビス、ビル・エバンスといった当代一流のジャズ・プレーヤーがクレジットされている。
2019年86歳で亡くなる前年までピアノ・トリオで来日しそのピアノと歌声を聴かせた。クラシック・ファンにとってはソプラノのナタリー・デセイとの共演も記憶に新しいだろう。
《シェルブールの雨傘》に話を戻すと、テーマ曲は半世紀以上経ても映画音楽の代表作の一つとしてその地位は不動だ。今回の交響組曲はテーマにとどまらず映画を観るような大作となっている。

藤岡 「《シェルブールの雨傘》にこんな壮大な曲があることに驚いた。あの有名なメロディーは出てくるけど、パリ音楽院で勉強した人だからクラシックの作品になっている。場面場面もコロコロ変わるし、ブルックナーみたいに同じ世界がずっと続くのではなく、次々と色が変わっていくので、聴いている人は飽きないと思う。とにかくドラマティックだし、美しい。」

壮大な交響組曲の中であのテーマ曲も繰り返されるが、様々な楽器がオペラの重唱のように魅力的な旋律を織りなし、まさにめくるめくメロディーの宝庫、更にジャズやタンゴなどルグランならではの多彩なジャンルも楽しめる。

実はマエストロにとって《シェルブールの雨傘》には特別な思い出があるそうだ。

藤岡 「僕が初めて指揮をしたのは中学2年の時。中学の器楽部で1年の時はトランペットを吹いていたけど、どうしても指揮者になりたいと音楽の先生に話をしたら、2年から指揮者にしてもらえた。その時初めて指揮したのが《シェルブールの雨傘》のテーマ曲とブラームスのハンガリー舞曲の6番。それ以来演奏していないけど、このメロディーを聴くと中学生の頃、指揮者になりたかった自分をすごく思い出して懐かしい」
「この映画は全編歌が流れているし、映像も色彩豊かだったのが印象に残っている。今回もそういう映画のシーンのように様々な色が見えるように演奏したいし、大作だけどあっという間に終わっているように楽しく演奏できたら」

稀代の作曲家、武満徹とミシェル・ルグランに挟まれる形で演奏するのは、日本フィル初登場のフルート奏者Cocomiだ。独自の歌を奏でるように伸びやかな音楽を聴かせる若手注目株の彼女が演奏するのはモーツァルト。

藤岡 「Cocomiさんとは初めてだけど、凄く評判で話題になっているので楽しみ。以前ウィーンフィルのプレイヤーと話していた時にモーツァルトの音楽って彼らはオペラだからって言ってたけど、やっぱり歌、歌に溢れている。プログラムとしては武満と濃厚なシェルブールの間に爽やかな歌があるのも良いコントラストだと思う。」

藤岡幸夫の熱い想いと新々気鋭のフルート奏者Cocomiの清涼感がどのような化学反応をもたらすのか、聴きどころ満載だ。

                             (毬沙琳)

<公演情報>
2025年1月25日(土)17:00 第404回横浜定期演奏会
2025年1月26日(日)14:00 東京オペラシティコンサートホール
指揮:藤岡幸夫
フルート:Cocomi
武満徹:組曲《波の盆》
モーツァルト:フルート協奏曲第2番
ルグラン:交響組曲《シェルブールの雨傘》

https://japanphil.or.jp/concert/20250125
https://japanphil.or.jp/concert/20250126