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広上淳一&日本フィル「オペラの旅」Vol.1 ヴェルディ:オペラ《仮面舞踏会》 記者懇談会レポート

2024.11.11

広上淳一&日本フィル「オペラの旅」Vol.1《仮面舞踏会》
記者懇談会レポート

2024年10月24日、東京音楽大学にて記者懇談会を行いました。多くの音楽・報道関係者の皆様にお集まりいただきましたこと、この場を借りて御礼申し上げます。以下に記者懇談会の内容をご報告いたします。

公演情報はこちら

平井俊邦(日本フィル理事長)

来年の4月、日本フィルは、フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)を務める広上淳一さんとともに新しいプロジェクト「オペラの旅」を始めます。

このシリーズは、広上さんのオペラへの情熱、教育者として若手音楽家への支援といった思いを受けて、演出に高島勲さんを迎え、サントリーホールの舞台空間を活かした演出、衣裳等を取り入れたセミ・ステージ形式で上演するものです。第1弾はヴェルディの《仮面舞踏会》を取り上げます。1989年、シドニー・オペラハウスで広上さんがはじめて指揮をした、思い出のオペラでもあります。オーケストラファンの皆様には、ヴェルディが声を使った交響曲だと思って聴いてほしいと願っています。

日本フィルのオペラとの歴史をたどってみると、1958年、ドビュッシーの《ペレアスとメリザンド》を日本初演(フルネ)、1996年第485回東京定期演奏会で《サロメ》(ゲルギエフ)、2003年第555回東京定期演奏会で《つばめ》(ジェルメッティ)を演奏会形式で行っています。創立60周年を迎えた2016年、当時の正指揮者山田和樹さんの指揮で、藤原歌劇団の《カルメン》のピットに入りました。これが28年ぶりのグランドオペラのピット、そして同じ年の5月、当時の首席指揮者ピエタリ・インキネンが《ラインの黄金》全幕を東京文化会館でバイロイト歌手陣を招き上演いたしました。オペラという総合芸術の魅力、オーケストラの可能性を大きく広げていくこのジャンルに魅了されました。しかし、時間、お金とも膨大にかかるため、年間150公演を行う自主運営オーケストラには、継続的に取り組むことができずにおりましたが、2026年の創立70周年を前に、再びこの新たな挑戦をしてくことを決断しました。これは、広上淳一さんと高島勲さんというお二人のアイディアと人脈、そして情熱なくしては実現できないものです。

指揮者の広上淳一さんは、かつて日本フィルの正指揮者として(1991年9月-2000年8月)、そしてその後も毎年、定期演奏会へ出演するなど継続的かつ緊密な繋がりを続け、2021年よりフレンド・オブ・JPO(芸術顧問)に就任いただきました。諸々大きなサポートをいただいてまいりましたが、日本フィルが大きく飛躍できる新しいプロジェクトに取り組もうと話し合い、この「オペラの旅」という大きな挑戦を、自らの力でやっていこうと決意いたしました。

その前身ともいえるのが2023年7月の東京定期演奏会でのオペラ《道化師》でした。世界で活躍する日本の歌手陣とともに、今の日本フィルが十分な力を持っていることを皆様にも御覧いただけたかと思います。ピットに入っている回数は少ないですが、日本フィルの音は、実はオペラに向いているのではないかと思っております。若い力みなぎる管楽器も安定しており、オーケストラの個性を最も出せているオーケストラのひとつなのではないでしょうか。広上マエストロとともにこのプロジェクトを通してまた一回りオーケストラとしても成長していければと願っております。ご注目ください。

オーケストラやオペラ団体も注目の公演が続いており、クラシックファン層のオペラへの興味は高まっています。その中で広上淳一さんによるこの「オペラの旅」は、日本フィルハーモニー交響楽団の新たな挑戦であり、お客様には身近にオペラの楽しさを体験する機会を広げていただければと願っております。このプロジェクトを通して、オーケストラも演出家の高島さんの芸術感に触れ、世界で活躍する歌手の皆様から大きな刺激をいただき、そしてマエストロや合唱を通して本日も場所をご提供いただいております東京音楽大学さん、そしてシンフォニーコンサートとは比較にならないほどのたくさんの方々と深くかかわらせていただく貴重な経験を得ることができることを、心より感謝申し上げます。まだまだ団としては経験値は低いところからのスタートではありますが、皆様のお力もお借りしながら、このプロジェクトのスタートを成功させたいと強く思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。   

広上淳一[フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)]

本日はご参加いただき、ありがとうございます。

先ほど平井理事長からもお話がありましたが、私は今年で66歳を迎え、様々なオーケストラと関わりながら、責任ある年齢になったと感じています。過去を振り返りますと、1984年、オランダで開催されたキリル・コンドラシン国際コンクールで優勝した際、審査委員長だったベルナルト・ハイティンク先生に、表彰式の後、次のような言葉をいただいたことを思い出しました。

「君は今いくつだ?」と尋ねられ、「26歳です」と答えました。当時は英語もあまり話せなかったので、片言でのやりとりでしたが、先生はこうおっしゃいました。「僕はこのコンセルトヘボウ管弦楽団に育てられて37年。そろそろこのオーケストラを離れる時が来る。しかし君も、指揮者として成長する中で、オーケストラに育てられたことへの感謝を感じる時がきっと来る。そのことを心に留めておきなさい。どんなオーケストラに出会うかはわからないが、必ずそういう出会いがある。」

振り返りますと、私の日本フィルの定期演奏会でのデビューは1988年でしたが、その出会いはさらに遡り、1982年に始まります。先々週行われた「東京国際指揮者コンクール」は当時「日本コンクール」という名称で、その本選で演奏してくださったオーケストラが日本フィルでした。その後、恩師である故・外山雄三先生のもとで名古屋フィルで1年間修行を積み、海外に飛び込む生活が始まります。1988年、しばらく5〜6年のブランクを経て、東京文化会館でのデビューを果たしましたが、これが日本フィルとの長い歴史の始まりだったと記憶しています。

その後、世界中、日本全国のオーケストラ、現在も金沢をはじめとする多くのオーケストラと関わりを持っております。日本フィルは、私を育ててくれたオーケストラであり、今、66歳となった身として、その存在に心の底から感謝しています。若い頃には未熟さゆえに至らぬ行動をとったり、オーケストラとの絆をうまく築けなかったり、能力や経験が足りず、何度か失敗してしまったこともありました。しかし、そうした中でも毎年忘れずに声をかけてくれたのは世界でもこのオーケストラだけでした。42年間の付き合いの中で、約36年間毎年出演の機会をいただきました。正指揮者の時期を経て、現在「フレンド・オブ・JPO」という名をいただいたのも、私の深い感謝の表れです。

今、指揮者としての残りの時間を迎え、何かこの楽団に恩返しができないかと考えています。その一つが、長年温めてきた夢である若い才能や日本を代表する歌手たちとともに、サントリーホールという素晴らしい音響の中で、気軽に楽しめるオペラシリーズを創りたいというものです。壮大な舞台とはまた異なる、気軽さの中にも真摯な音楽を感じられるシリーズを実現できないかと考えました。

そこで、信頼する高島勲先生とコラボして何かできないかと、10年ほど前からこの構想を練ってきました。そして日本フィルの協力を仰ぎ、2年前の東京定期公演で《道化師》(演奏会形式)を実現することができました。ご紹介がありましたように、日本フィルは本来シンフォニーオーケストラですが、オペラを演奏した際のその息吹の強さ、歌手と一体となる音楽的要素には、私が1982年に出会ったときの、経営的に厳しい状況にもかかわらず生き抜くたくましさと、若い指揮者を育てようとする温かさが息づいていました。《道化師》を指揮しながら、そのことを痛感し、感無量となりました。

であるならば次はステージだ、と。

今回の企画は、このオーケストラの新たな才能、オペラティックな表現力を、日本を代表する歌手たちとともに紹介し、素晴らしい音楽絵巻を描けるという確信に基づいています。ぜひこの機会に、多くの方にその魅力を感じていただきたいと願っています。

高島先生とは、日生劇場で東京のオペラデビューを果たさせていただいた際にご縁をいただき、私にとってオペラ指揮者としての恩人でもあります。そして、私の母校である東京音楽大学合唱団は、今では日本で唯一、プロのオーケストラと共演できる音楽大学となりました。以前は国立音大や武蔵野音大も年末の第九でプロオーケストラと共演し、日本の冬の風物詩となっていましたが、今では叶わなくなりました。しかし、東京音楽大学は日本フィルとの共演を続け、今年で50年になります。私が1979年に入学した際、故・渡邉曉雄先生が日本フィルと東京音楽大学の合唱団で第九を演奏しようとおっしゃってくださったのが始まりです。

今回も、若い学生たちがプロオーケストラの音に触れ、日本を代表する歌手たちの歌声を聴きながら参加する喜びと学びの場として、東京音楽大学の合唱団に加わってもらうことにしました。サントリーホールは優れた音響を持っていますが、オペラハウスではありません。そのため、普段コンサートに来られるお客様が気軽な気持ちで楽しめるよう、セミ・ステージ形式で演出を施し、衣裳も取り入れながらオペラの雰囲気を味わえるようにしています。限られた予算の中でも、心を込めた手作りのオペラを提供することが、このプロジェクトの目的です。この企画が日本フィルの新たな歴史の一歩となることを願っています。

2月25日には、東京音楽大学の校舎(中目黒)で、教員でもある私と高島先生が日本フィルと共催でオペラのレクチャーを行う予定です。観劇前にオペラの背景や見どころを知る機会として、こちらもぜひお楽しみいただければと思います。(※3月26日朝日カルチャーセンターでも講座開催予定。詳細は決まり次第お知らせいたします。

ふと振り返ると、ハイティンク先生のおっしゃったことが思い出されます。彼は、シンフォニーオーケストラであるコンセルトヘボウがオランダ国立オペラハウスで年に一度、オペラを演奏するようになった話をされていました。それが1986年から今も続いています。日本フィルも、シンフォニーとオペラの両分野で高いクオリティを発揮し、皆さんにその魅力をお届けできるオーケストラとして期待されています。どうぞ、このオペラ企画にご興味を持ってご参加いただければ幸いです。

高島勲(演出)

この度、日本フィルさんの「オペラの旅」という新しいプロジェクトに、広上さんからお声がけいただき、演出を担当させていただくこととなり、大変光栄に思っています。

広上さんとは、日生劇場での《後宮からの逃走》で活動復帰後にご一緒させていただいたのが始まりで、その後《利口な女狐》でも共演いたしました。私が長年、日生劇場の芸術参与を務めていた関係で、その後のダ・ポンテ三部作や《アイナダマール》でも広上さんに指揮をお願いし、非常に長くお付き合いいただいています。新国立劇場の開場後も、日本におけるオペラ普及の一環として多くの活動が行われていますが、広上さんが提案されたように、より気軽にオペラを楽しめる空間があっても良いのではと感じており、今回のプロジェクトに参加できることを嬉しく思っています。

今回の公演は、オペラ劇場ではなく音響の良いホールでのオペラとなるため、音に集中し、作曲家が意図したイメージをどこまで伝えられるかという可能性を探求したいと考えています。私もNHKホールや東京文化会館で、オーケストラ主催のセミ・ステージオペラの演出を経験してきました。サントリーホールではジルベスターコンサートやニューイヤーコンサートでかかわったことがありますが、オペラ演出は初めてです。舞台装置のない空間でどこまで演出的に解決できるかを、広上さんの提案と共に模索していきたいと思っています。

今回は衣裳と照明も取り入れることにしています。特に衣裳については、歴史的な時代設定を意識したものも考えましたが、何もない空間にただ 衣裳をつけるだけでは意味があるか疑問も残りますので、衣裳担当の桜井さんと共に新たな方向性を探っていきたいと思います。また、合唱団にも参加してもらいますが、舞台で合唱団が自由に動くスペースは限られています。そこで、振り付けを広崎うらんさんにお願いし、動きの中でどのような表現が可能かを一緒に探求していきたいと考えています。

《仮面舞踏会》という作品についてですが、2002年、愛知芸術劇場の十周年記念の際に、イタリアから舞台装置や衣裳を借りて演出を担当させていただきました。この作品タイトルから豪華絢爛な舞踏会をイメージされる方も多いと思いますし、「仮面の背後にある人間の本性」という側面から多くの演出が信頼と裏切り、忠誠と反逆といった要素に焦点を絞りすぎてしまうことがありますが、それだけではヴェルディが描きたかったもっと深いテーマに届かないのではと感じています。

ヴェルディが伝えたかったもう一つの大きなテーマは「赦し」であると考えています。主人公リッカルドが最後に殺される瞬間、彼が敵を赦すという展開には、人間の運命と「赦し」の力が描かれています。このホールで、そうした運命の深さや赦しの世界を皆さんに感じていただける演出を目指したいと思っています。

ヴェルディ自身も家庭生活では辛い運命に翻弄され、子供や妻を亡くし不幸な結婚生活を送りました。そのため、彼の作品には暗い側面が反映されがちですが、《仮面舞踏会》ではその悲しみから少し距離を置き、恋愛物語の形をとっています。本日ご参加の主演お二人による恋愛のパートも、観客の皆様にぜひ感じ取っていただきたい部分です。そして最後の「赦し」というテーマを、どのように提示できるかを考え、観客の皆様に感じ取っていただけるような作品に仕上げていきたいと思っています。

また、この作品は、政治において暗殺が変革の手段となるというテーマを扱っています。近年、日本でも、また世界でも実際にそうした出来事が起きており、時代を超えて現代の私たちにも身近な問題といえます。歴史劇として観ると遠い過去の物語に思えるかもしれませんが、むしろ現代にも直結するテーマです。仮面舞踏会が単なる歴史物語ではなく、現代にも通じる運命的な要素を描き出すような、そうした演出ができればと願っています。

広上さんからのお話にもありましたが、日生劇場でもサイドプログラムを取り入れてまいりました。このようなサイドプログラムを活用し、多面的にオペラを楽しんでいただけるような取り組みができればと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

中村恵理(アメーリア役)

《仮面舞踏会》でアメーリア役を務める中村恵理と申します。日本フィルハーモニー交響楽団の皆様とはこれまで第九でご一緒させていただいたことがあり、今回のオペラ作品としては初共演となります。

「オペラの旅」の記念すべき第1作目の主役にお声をかけていただき、大変光栄で嬉しく思っております。実際には、主役はリッカルド役の宮里さんで、アメーリアはヒロインであるものの脇役に当たります。作品の中で政治的なテーマと家庭内の葛藤が交錯し、アメーリアの個人的な悩みが大きな政治的ドラマへとつながっていく、非常にドラマティックな作品です。高島さんも触れておられたように、現代の私たちにもつながるテーマが描かれており、音楽的にも役柄的にも共感できる作品として、興味深く取り組んでおります。

また、私が海外で活動するオペラ歌手ということで、「日本での演奏活動はいかがですか?」と事前に質問をいただいておりますが、私のスタンスはどこにいても変わりません。今回は日本が誇るサントリーホールに出演できることを誇らしく思います。サントリーホールを海外の同僚たちが称賛してくれることも多く、日本のオーケストラも素晴らしいと多くの方が評価しています。しかし一方で、「日本には優れたオーケストラがあるのに、日本人の歌手が海外で見られる機会が少ない」という声も耳にするようになりました。これだけのホールとオーケストラがある中で、日本からさらに発信していければと思っています。例えば、インバウンド観光客の増加に伴い、ホールにも英語字幕があれば、日本のオペラやクラシック音楽に興味を持つ海外の方にも理解が深まりやすいと思います。私自身、東京音楽大学で非常勤講師を務め、海外からの学生を教えることもあり、日本でのオペラ鑑賞をもっと多くの外国人にも楽しんでいただければと感じています。イタリア語上演で日本語字幕のみだとなかなか理解が難しいかもしれません。観光で偶然来日した方々にも、オペラや音楽の魅力を伝える場が増えれば嬉しいです。これからも、日本国内のオペラファンやオーケストラファンだけでなく、海外からの観客に向けて発信していくことも大切だと考えていますので、報道関係の皆様にもぜひご協力いただければと思います。

「オペラの旅」シリーズの第1回を成功させ、これが若い方たちの活躍の場として続くことを願っております。4月の《仮面舞踏会》の公演に向け、全力を尽くしますので、どうぞよろしくお願いいたします。

宮里直樹(リッカルド役)

リッカルド役を務めます宮里直樹です。昨年、宮崎で《仮面舞踏会》を広上先生や中村さんとご一緒させていただいた際、リッカルドという役の大変さを改めて感じました。どこが見せ場かと聞かれると「全部です」と答えたいほど、とにかくずっと歌い続ける役で、僕にとってもかなり挑戦的な役どころです。昨年の公演では、先生に励まされながら、必死に歌っていたのを覚えています。そして、「2年後にまたやるから」とお話しいただいていたのが実現し、日本フィルさんとともに4月の公演が決まり、身が引き締まる思いです。同時に、この役に対する少しの恐怖心も感じながら、喜びと緊張感を持って臨む予定です。

僕も少しずつ大きな役を演じさせていただくようになりましたが、まだまだ先輩方には及びません。今回の公演は舞台オペラの形式ではないと聞いていますが、 衣裳や少しの動きもあるとのことですので、オペラそのものとして真剣に取り組みたいと思います。この作品は本当に素晴らしく、感動的な場面が多いので、来てくださるお客様にその魅力が伝わるよう最善を尽くしたいです。

「オペラの旅」Vol.1ということで、次のVol.2に繋げるためにも、今回の公演をしっかりと成功させることが私たちの役目だと思っています。広上先生や高島さん、日本フィルの皆さん、素晴らしい歌手陣とともに全力で頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

質疑応答

毎回ヴェルディを取り上げるのですか?それとも変わりますか?

→もちろん変わります。

宮里さんへの質問です。ご両親がオーケストラプレーヤーですが、オーケストラがピットに入っている舞台と、オーケストラ主催のセミ・ステージオペラの場合、聴き応えの違いをお客様に説明するとしたら、どのように説明しますか?

→まず、オーケストラが舞台上にいる場合、どの楽器がどんな演奏をしているのか、目で確認できるのが大きいと思います。サントリーホールのようなコンサートホールでのオペラでは、ホール全体に響く音の広がりがまったく違います。そのため、オーケストラが舞台上にいると、歌手としては正直「この音量に負けずに歌えるかな」と不安になることもありますが、それでも一体感の面では、ピットよりも舞台上にオーケストラがいる方が圧倒的に良いと感じます。劇としての視覚効果を重視するならピットの方が良いかもしれませんが、音楽的な一体感という意味では、オーケストラが上にいる方が優れていると感じますね。

広上マエストロへの質問です。先ほど、日本フィルの息吹の強さや生き残る逞しさについてのお話がありました。オペラは非常に大きな存在だと思います。2月に行ったインタビューでは、能登の被災地についてお話ししましたが、今回はその取り組みが魂にどのような影響を与えるのか、お伺いしたいと思います。

→能登では、今回2回続けて大きな自然災害がありました。元旦に起きた地震の影響で、特に被害が大きかった地域に豪雨が集中したのは、本当に神様のいたずらとしか言いようがありません。

金沢での私の役割と、この日本フィルと共に取り組むべき仕事は同じではありません。音楽家や指揮者を日本で温かく育ててきた自主運営のオーケストラとして、このような困難な状況でもたくましく生き残っていることに感謝しています。私もこのオーケストラに育ててもらった一人として、恩返しをしたいと思っています。

このオペラの旅を通じて、日本フィルがオペラの分野でも素晴らしい能力を発揮する手助けができればと思っています。このオーケストラは東日本大震災の被災地を今でも支援し続けています。私たち音楽家たちが持つ人々の痛みに対する心遣いは、地域に根ざした組織として重要だと考えています。

「手を取り合って助けよう」という姿勢が必要です。お互いに助け合う象徴的な試みとして、この《仮面舞踏会》が、日本フィルハーモニー交響楽団の新しいオペラの挑戦であると同時に、素晴らしい能力を持った楽団であることを再認識してもらう大きな出発点になることを願っています。

■高島さんへ質問です。今回は、舞台を現代の東京に設定するという考えはなかったのでしょうか?

→実際に、そういった読み替えの形も可能だと思います。しかし、この物語のテーマをしっかりと理解していただくためには、読み替えを行う場合、服装に別のレベルの認識を持たせる必要があると考えています。そのため、今回はその方向で進めないことにしました。

ただし、衣裳についてはまだ固まっていませんが、歴史的なものをそのまま持ち込むわけではありません。歴史的要素や身分を表す象徴的な部分は衣装に反映させたいと思っていますが、ある程度ファッショナブルで、「現在の東京にもこういう人がいてもいいのでは?」という視点も追求していきたいと考えています。

写真:堀田力丸