1月20日と21日の新年最初となる東京定期演奏会では伊福部昭の「シンフォニア・タプカーラ」とバルトークの「管弦楽のための協奏曲」をより細かく掘り下げていきたいと考えています。 今年5月には才能溢れるピアニスト務川慧悟氏を迎え、伊福部昭の「ピアノと管絃楽のためのリトミカ・オスティナータ」をお聴きいただきましたが、その時以来私は、伊福部の音楽をさらに探求することに強い関心を持ち続けています。5月の演奏会に向けた初回のリハーサルで、日本フィルはまるで毎シーズンこの作品を弾いているかのような強烈で感動的な演奏をし、私はすっかり圧倒されました。ウィーン人が演奏するヨハン・シュトラウスやフィンランド人が演奏するシベリウスを思わせるような、伊福部昭の音楽への自然な理解とフレージングを感じました。 1月にお届けする「シンフォニア・タプカーラ」は「リトミカ・オスティナータ」よりも前に作曲され、1955年にファビエン・セヴィツキー指揮インディアナポリス交響楽団の演奏で初演されました。ちなみに、セヴィツキーはアメリカで活躍した名指揮者セルゲイ・クーセヴィツキーの甥であり、クーセヴィツキーは後にボストン交響楽団と共に次回東京定期演奏会のもう一つの作品となるバルトークの「管弦楽のための協奏曲」を初演しています。 「シンフォニア・タプカーラ」はアイヌの影響を強く受けています。私事になりますが、妻の母方の祖先がアイヌであることから、私は初めて「アイヌ」の名称や存在を知ることとなりました。この作品はとてもリズミカルであり、私が幼少時代にシンガポールで体験した様々なお祭りや文化的儀式を思い起こさせます。今後、日本以外の国でも、深い理解を持って伊福部の作品を演奏していきたいと考えています。 伊福部は、ストラヴィンスキー、レブエルタス、ハチャトゥリアン、ショスタコーヴィチの音楽と驚くほどよく合います。彼らの作品をプログラムに加えることも考えましたが、それと同時にバルトークの作品にも惹かれました。バルトークの卓越した作曲技術もさることながら、ハンガリーやスロバキア、ルーマニアの民族音楽との深いつながりは、伊福部の美学と揺るぎない並走を描いています。 伊福部もバルトークも、音楽的原始主義というスタイルで現代主義的な不協和音と民族主義的な要素が混ざり合った音楽を生み出しました。これらは私にとって非常に魅力的なものなので、これからも彼らの音楽を研究し続けたいと思っています。今回、日本フィルの素晴らしき仲間達と共に学び、サントリーホールにて皆様と貴重な音楽体験を共有出来ることに深い喜びを感じています。 さらに2023年1月は、私の大好きなベートーヴェンとラフマニノフの交響曲を含む魅力溢れるプログラムに3週間に渡って取り組む機会に恵まれたことに、今からとてもワクワクしています。 会場で皆様にお会いできることを楽しみにしております。
第747回東京定期演奏会2023年1月20日 (金) 19:002023年1月21日 (土) 14:00サントリーホール指揮:カーチュン・ウォン[首席客演指揮者]
伊福部昭:シンフォニア・タプカーラバルトーク:管弦楽のための協奏曲
カーチュン・ウォン 出演公演
2023年1月14日(土) 14:00 埼玉会館2023年1月15日(日) 14:00 サントリーホールロドリーゴ:アランフェス協奏曲(ギター:村治 佳織)ベートーヴェン:交響曲第3番《英雄》
2023年1月28日(土) 17:00 横浜みなとみらいホール2023年1月29日(日) 14:00 東京芸術劇場ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 (ピアノ:小菅 優)ラフマニノフ:交響曲第2番