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オケのテイキは、おもしろい マーラー「交響曲第9番 ニ長調」

2024-07-12
オーケストラ ワークショップ・イベント

楽曲をひも解き、楽団員と参加者が踊って楽しむ!
マーラー「交響曲第9番 ニ長調」ワークショップ

本間文子(小説家・編集ライター)
平舘平(写真)

15-50? マーラーの謎を解き明かす

「15-50」
 スクリーンに映し出された数字を指して、日本フィルのコミュニケーション・ディレクターであるマイケル・スペンサー(以下、マイク)は、会場に集った約80人の参加者たちを見渡しながら笑顔で言った。
「なぜ、今回はこのタイトルなのでしょう?」


 2024年4月29日にセシオン杉並(東京都)で開催された、音楽創造ワークショップ。定期演奏会で取り上げる曲を毎回様々な切り口で解説する「オケのテイキは、おもしろい」シリーズ第13回は、同年5月に演奏される、ダスタフ・マーラー「交響曲第9番 ニ長調」(第760回東京定期演奏会)がテーマだ。
 冒頭の謎かけに参加者たちが返答する。「50」とは、マーラーがこの世を去った年齢だ。そして「15」は「最初の作品をマーラーが作曲した年齢」だとマイクが種明かしをする。

ワークショップには、楽団員を含む約80人が参加した

マイケル・スペンサー
(日本フィル コミュニケーション・ディレクター)

 和やかな雰囲気で幕が開くと、くだんの処女作「ピアノ四重奏断章 イ短調」で用いられたソナタ形式を、マイクは「ソクラテス式問答法」に例えた。実際にピアノの伊藤慧(いとう・けい)が第1主題を弾くと、ヴァイオリンの竹歳夏鈴(たけとし・かりん)が「違う提示」をしながら旋律を展開していく。序奏・提示部・展開部・再現部・結尾部からなるソナタ形式は確かに、議論を繰り広げながら終結に向かう様子にそっくりだ。

「ピアノ四重奏断章」の奏者は左から
Pf.伊藤慧 、Vn.竹歳夏鈴、Va.中川裕美子、Vc.大澤哲弥
「交響曲第9番」のレントラーでは、
伊藤に代わりVn.佐藤駿一郎が加わった(左から1人目)

みんなで踊る「9番」第2楽章のレントラー

 次に「9番」が持つ背景について、マーラーの生涯や作曲された当時の文化的背景とともに解説され、さらに「9番」を掘り下げて“体験”していく――。
 体験と書いたのは、第2楽章に組み込まれたレントラー(南ドイツの民族舞踊)を、参加者全員で輪になり踊ったからだ。
 映画「サウンド・オブ・ミュージック」に登場するレントラー曲の演奏に合わせて、楽団員を含む初対面の人同士が対になって手を取り合い、ステップを踏んでは、やや複雑な回転を加えていく。気恥ずかしさもすぐに消え、参加者と奏者がアンサンブルになっていく。いつしか会場は笑い声であふれていた。
 レントラーとワルツが交互に登場し、直感的に踊りたくなる楽章だ。今後は聴く度にこの光景が脳裏に蘇ることだろう。

楽団員と参加者とでレントラーを踊る

楽団員の胸には「ポンくん(伊波睦)」、「としくん(Tp.大西敏幸)」などのワークショップネームが下がっていて親近感が湧く! 会場は笑顔であふれていた

繊細な“聴きどころ”に耳を澄ませる

 3楽章では、複雑なフーガに続く管楽器による小さな行進曲を聴き、4楽章では重厚な響きのヴァイオリン・ソロの最後にあたる、ピアニッシモの高音に耳を澄ませた。マイク自身も演奏した経験から「奏者が恐怖心を抱く箇所」だと話すが、「時が止まったよう」に美しい。
 丁寧にひも解きながら聴いたことで曲が立体的に伝わり、より明確になった曲中の動きが体感できて面白かった!


オケのテイキはおもしろい 実施概要
日 程:2024 年4 月29 日(月・祝)14 時~16 時30 分
会 場:セシオン杉並 展示室
ワークショップデザイン:マイケル・スペンサー(日本フィル コミュニケーション・ディレクター)
通 訳:堀美夏子

演奏:
ピアノ 伊藤慧
日本フィルハーモニー交響楽団 弦楽四重奏
ヴァイオリン 竹歳夏鈴、佐藤駿一郎  ヴィオラ 中川裕美子  チェロ 大澤哲弥

参加楽員:谷﨑大起(ヴァイオリン)、中溝とも子(ヴィオラ)、大西敏幸(トランペット)、星野究(トランペット)、伊波睦(OB・元トロンボーン)

音響スタッフ:石川清隆
制 作:日本フィルハーモニー交響楽団