楽曲をひも解き、楽団員と参加者が踊って楽しむ!マーラー「交響曲第9番 ニ長調」ワークショップ
本間文子(小説家・編集ライター)平舘平(写真)
15-50? マーラーの謎を解き明かす
「15-50」 スクリーンに映し出された数字を指して、日本フィルのコミュニケーション・ディレクターであるマイケル・スペンサー(以下、マイク)は、会場に集った約80人の参加者たちを見渡しながら笑顔で言った。「なぜ、今回はこのタイトルなのでしょう?」
2024年4月29日にセシオン杉並(東京都)で開催された、音楽創造ワークショップ。定期演奏会で取り上げる曲を毎回様々な切り口で解説する「オケのテイキは、おもしろい」シリーズ第13回は、同年5月に演奏される、ダスタフ・マーラー「交響曲第9番 ニ長調」(第760回東京定期演奏会)がテーマだ。 冒頭の謎かけに参加者たちが返答する。「50」とは、マーラーがこの世を去った年齢だ。そして「15」は「最初の作品をマーラーが作曲した年齢」だとマイクが種明かしをする。
ワークショップには、楽団員を含む約80人が参加した
和やかな雰囲気で幕が開くと、くだんの処女作「ピアノ四重奏断章 イ短調」で用いられたソナタ形式を、マイクは「ソクラテス式問答法」に例えた。実際にピアノの伊藤慧(いとう・けい)が第1主題を弾くと、ヴァイオリンの竹歳夏鈴(たけとし・かりん)が「違う提示」をしながら旋律を展開していく。序奏・提示部・展開部・再現部・結尾部からなるソナタ形式は確かに、議論を繰り広げながら終結に向かう様子にそっくりだ。
みんなで踊る「9番」第2楽章のレントラー
次に「9番」が持つ背景について、マーラーの生涯や作曲された当時の文化的背景とともに解説され、さらに「9番」を掘り下げて“体験”していく――。 体験と書いたのは、第2楽章に組み込まれたレントラー(南ドイツの民族舞踊)を、参加者全員で輪になり踊ったからだ。 映画「サウンド・オブ・ミュージック」に登場するレントラー曲の演奏に合わせて、楽団員を含む初対面の人同士が対になって手を取り合い、ステップを踏んでは、やや複雑な回転を加えていく。気恥ずかしさもすぐに消え、参加者と奏者がアンサンブルになっていく。いつしか会場は笑い声であふれていた。 レントラーとワルツが交互に登場し、直感的に踊りたくなる楽章だ。今後は聴く度にこの光景が脳裏に蘇ることだろう。
楽団員と参加者とでレントラーを踊る
楽団員の胸には「ポンくん(伊波睦)」、「としくん(Tp.大西敏幸)」などのワークショップネームが下がっていて親近感が湧く! 会場は笑顔であふれていた
繊細な“聴きどころ”に耳を澄ませる
3楽章では、複雑なフーガに続く管楽器による小さな行進曲を聴き、4楽章では重厚な響きのヴァイオリン・ソロの最後にあたる、ピアニッシモの高音に耳を澄ませた。マイク自身も演奏した経験から「奏者が恐怖心を抱く箇所」だと話すが、「時が止まったよう」に美しい。 丁寧にひも解きながら聴いたことで曲が立体的に伝わり、より明確になった曲中の動きが体感できて面白かった!
オケのテイキはおもしろい 実施概要日 程:2024 年4 月29 日(月・祝)14 時~16 時30 分会 場:セシオン杉並 展示室ワークショップデザイン:マイケル・スペンサー(日本フィル コミュニケーション・ディレクター)通 訳:堀美夏子
演奏:ピアノ 伊藤慧日本フィルハーモニー交響楽団 弦楽四重奏ヴァイオリン 竹歳夏鈴、佐藤駿一郎 ヴィオラ 中川裕美子 チェロ 大澤哲弥
参加楽員:谷﨑大起(ヴァイオリン)、中溝とも子(ヴィオラ)、大西敏幸(トランペット)、星野究(トランペット)、伊波睦(OB・元トロンボーン)
音響スタッフ:石川清隆制 作:日本フィルハーモニー交響楽団