第49回 日本フィル九州公演 記者会見
2024年1月5日 アクロス福岡608会議室
日本フィルの九州公演は、1975年にスタートし、2024年の2月の公演が49回目となります。約半世紀という長きにわたり途切れることなく継続され、日本の文化財として誇れる九州公演。その最大の特徴は、すべての地域において市民の方々の自主的な参加による実行委員会で運営されていることです。オーケストラの音楽は、人々に励まし、癒し、生きる力を与え、子どもたちに創造力、物事に立ち向かう勇気を与えます。聴き手、そして作り手の皆様と日本フィルは、手を携えて真に地域に根ざした文化の発信に取り組み続けています。
第49回九州公演に先立ち、福岡で記者会見を開催いたしました。
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まず最初に能登半島での地震で、多くの方が亡くなられましたご冥福と1日も早い復興をお祈り申し上げます。九州の記者会見も4年ぶりとなります。2020年2月の九州公演がコロナ前最後の演奏会で、一週間後からは公演中止が続き我々も非常に苦しい思いをしました。その間、日本フィルの音楽の灯しびを絶してはいけないという九州実行委員の皆さんの思いが、本当に我々を支えてくださいました。九州公演は1975年が第1回目ですが、当時日本フィルはスポンサーから打ち切られて苦しかった中、まず九州の方が日本フィルを応援してくださった。これが九州公演の始まりです。芸術性と社会性を兼ね備えたオーケストラ・日本フィルの原点は、ここにあります。九州公演は実行委員会の皆さんと1年間相談をしながら一緒に作り上げるコンサートです。今は第一線で活躍している音楽家も、当時はまだまだこれからであっても、九州の方が温かく迎えて世に出していただいた。そういう意味でもこの九州公演は貴重な公演で、世界でもまれに見るツアーだと思っています。
創立指揮者の渡邉曉雄先生が九州公演第1回目の指揮者ですが、私が入団した時に「日本フィルは大きいスポンサーはないけれども、他のオーケストラに負けない宝物がある。それは1人1人の市民の方、聴衆の方。これは本当に日本フィルの大事な宝物。いつまでも感謝の気持ちを持って、演奏していくようにしなきゃいけない」と先生からお話をいただきました。日本フィルは市民とともに歩む、そういう生き方が正しいんだということを九州の方に教えていただき、自信を持たせてもらったと 渡邉先生はおっしゃっておりました。
2026年に日本フィルは創立70周年を迎えます。温かさ・人に寄り添うというのが日本フィルのコーポレートカラーですが、文化芸術を行う団体として、音楽を通して何を日本社会に対してできるか。常にそれを考えながら皆さんと一緒に2026年に向かって歩んでいきたいと思います。また、来年2025年の九州公演50周年は、昨年の9月に就任した首席指揮者カーチュン・ウォンと記念の演奏会を行います。50周年に向けての勢いをつけるこの49回を皆さんに支えていただきながら、成功させたいと思っております。
今回49回目を迎える日本フィル九州公演、実行委員の皆様の大変なご尽力、ご苦労もあったかと思います。今回コロナ後言うならば今までと同じような形で久しぶりに開催できるということ、素直に喜びたいと思いますし、心から感謝申し上げます。今回、隣にいらっしゃる服部百音さんと日本フィルと一緒に九州を周り、ヴァイオリン協奏曲の王道であるメンデルスゾーンとどのように向き合っていけるか1つの楽しみです。小山さんとのモーツァルトもとても楽しみにしておりますが、今回のメインプログラムに関しましては私の方からまず提案させていただきました。幻想交響曲は過去何回か演奏はされていますが、なかなかこういう旅行で大規模な曲を持っていくことは予算面の問題で避けがちですが、こういう作品を九州の皆さんに聴いていただければという思いでお願いしました。ドヴォルジャークはライフワークとして取り組んでいる作曲家の1人で、初めての九州公演では新世界を取り上げたので、今回は8番をあげさせていただきました。私も鹿児島出身なので、毎年冬になると来てくださる日本フィルをとても楽しみにしていました。第9回を初めて聴き、プロの生の演奏でボレロを聴くことが初めてで、体全体が震えるほど感動したのをよく覚えています。前回も思いましたが、40年前の自分に会えるような思いです。テレビでしか見たことがない野球選手が目の前でボールを投げているということと同じように、テレビとかそういったものでしか見たことのないオーケストラの人たちが目の前に。燕尾服を見ることも感動するんですよね。本物のオーケストラをその頃は無邪気に楽しんでいましたが、後にどれだけ実行委員と日本フィルのご苦労ご尽力と、皆様のお力と助けによってこの演奏会が継続しているか知りました。本当に素敵なことだと思います。自分自身も次の世代にまたその時日本フィルを応援してくださった方々への恩返しというような気持ちで望みたいと思います。
この数年間というのは世界中にとって危機のような数年間で、人間が生きていく中で一体何が必要で、何を目指していて、生物学的な根本のところに立ち返って何が必要なのか、必要じゃないのかというものに直面させられました。そんな中で毎年途絶えることなく音楽を日本の九州の地域に紡ぎ続けてきたこの歴史のあるツアーの49回目という1点に、私がこのような形で点と点を結ぶ役目を担わせていただけたこと、本当に嬉しく光栄に思っています。下野マエストロとは14歳の時が初共演。今の恩師でもあるブロン先生の元で朝から晩まで修行をしている真最中で、10年前に弾いたのもメンデルスゾーンでした。この美しいヴァイオリン・コンチェルトの魅力の心髄というのを一緒に作っていく中で、マエストロは私に直線的(直接的?)に音楽で示してくださり、それを受けて私も精一杯頑張りました。マエストロは本当に優しく、温かくいい方なんですね。愛情深く、緊張していた私を包み込んでいただいて。それから10年という時を経て今また同じ曲でマストロと久しぶりに共演を果たせるということも、とても不思議な引き合わせと感じています。
各地を訪れてクラシックの何がいいのか、面白いのかを伝えていくことが私たちの1番大事な役目ですが、素晴らしいマエストロ、それからオーケストラの力でどこまでそれを伝えていけるか、それをどれだけ長い間続けていけるか。日本人に対してクラシック音楽の位置付けを堅苦しい形ではなく、より自然な形でヨーロッパの人の日常の生活に馴染んでいるクラシック音楽の形のそれのように、少しでも橋渡しをする役目を果たしていければなと思っています。とにかく健康で頑張りたいと思います。
日本フィルの第49回九州公演のツアーで今回ご一緒させていただけることになって、今本当にワクワク嬉しく、心がときめいております。また曲目は初めてのモーツァルトの協奏曲20番を。大変大曲ですけれども、非常にモーツァルトが全力をかけて作って、ベートーヴェンがすごくこの曲を気に入ってカデンツァも作ったというほどの作品です。それでベートーヴェンと言えば第1回の時に山田一雄先生と共演があり、それからまた小林研一郎先生ともさせていただきという、そういう思い出ですし、今度ご一緒させていただける
下野さんはもう本当に音楽的なこと、またいろんな人間的なことで心が通じると言いますか、尊敬しつつまた温かな心で包んでいただけるそういう指揮者の方なので、本当に下野さんとモーツァルトということが何よりも嬉しく思います
今回、福岡そして宮崎、佐世保という3都市でさせていただきますが、日本フィルのコンサートというのは普通の1回1回のコンサートとちょっと違っていて、実行委員会の方たちがものすごくその地元の愛と日本フィルへの愛を込めて、いつも運営に携わられていて、その1回1回のコンサートがただそこで行われているというだけでなく、人間同士の持っているそういう熱波みたいなもので作られているような感じがいたします。
今回そういう皆さんと一緒にまたこういう音楽会を築いていけることが何より幸せだなと感じます。私はこれまで49回の間に4回、今回が5回目ということですので、長いご縁とそれから深いご縁をいただいていることに感謝して、今回の演奏会を本当に楽しみにしております。また現地で皆様にお会いできる日を楽しみにしております。
質疑応答
A.下野:幻想というと「小林研一郎先生と日本フィル」というイメージが私の中ではすごくありました。私は定期演奏会では言うならば妙な曲ばっかりやっていて、、、日本フィルの十八番をご一緒することでお互いより音楽を突き詰められると思っています。また幻想は子どもの頃からの憧れの曲の一つで、それを日本フィルとやってみたいという気持ちがありました。鹿児島ではやはり幻想交響曲はそんなに演奏されないので、そういう有名な曲だけれどもあんまり頻繁には演奏されない作品を、やはり生で聴いていただきたくて、というのが1番大きな理由の1つです。
また、もう一曲のドヴォルジャークの8番は、これも日本フィルの十八番でよく日本フィルの演奏も聴いていました。小林先生も含めてビエロフラーヴェクやルカーチといった東欧系の音楽のエキス、伝統をお持ちなのでそういったところからも、学びを得られるのも楽しみの一つです。
A.下野:日本フィルの音の特色は、私は美しいと思っています。迫力はもちろんありますが、その迫力の中に歌があると思います。目立たないパートの人たちもいつもウキウキワクワクしながら弾いていて、その歌に溢れる響きが日本フィルの最大の魅力だと私は思っていますので、それを聴いていただければ嬉しいです。
ドヴォルジャークの伝記を読んでいると悪口が1つもないんですよね。ドヴォルジャークは奇人だ変人だみたいなことが一切なくて、自分の曲を聴いていい曲だってと泣いていた。そんな人います?周りに。いないですよね。
(服部さん)ナルシストじゃない?
ナルシストだけど、すごく作曲家にしては人柄が良くて、本当に愛情たっぷりの音楽に溢れた作曲家の1人だと思います。それが日本フィルの音楽性にとてもマッチする。ドヴォルジャークの8番の聴きどころは、交響曲ですが様々な楽器に素敵なソロがあります。お客様の心の中に大自然の中でさえずってる小鳥だったり、小さな動物がちょこまか動いていたり、そういった風景が浮かんできたらなと。あと生まれも育ちも鹿児島ですがドヴォルジャークを聴くとなぜか懐かしいと思える。日本人のこの感覚にもぴったりだと思います。
A.下野:私はクラシックが初めてという方にいつもお話しさせていただくことがあるのですが、非日常を体験するんだと思っていただければいいなと思うんです。あと、実は無音を楽しんでいただきたい。世の中、音に溢れていますが、コンサートホールに入ると結界の中に入ると言いますか、非日常の空間に入るそのワクワク感だけでも楽しんでいただけると思います。お子さん向けには大人が寄ってたかって同じことをしているものを見に来なさいっていう。笑 今時真剣に80人とか100人で同じことをしている軍団ってないですよね。ある種コミカルだと思うので、面白いものがきっと見つかりますよ、と。
A.服部:非現実的な無音の環境に身を浸すことで、わずかな「有」が際立って美しく聞こえる感覚は確かにあると思います。音楽は私たちの体を通してエネルギーを伝えて、感情が共鳴して、涙を流すとか喜ばしい思いに満ちるとか感情に作用しますよね。けれどそれは言葉ではない、誰も傷つけない、究極の自由があります。聴衆と演者が対等な立場で、こちらが伝えたものを受けて、それが嫌いか好きかというのは、その人の感性とそれから本当に好みの問題。どっちに転んでもいいから何かを感じる体験として捉えていただきたいです。どう聴くべき、という意識を取り払って自由に聴いてください!
A.服部:明らかに14歳の時のメンデルスゾーンとは感じ方もそれからその存在そのものがガラっと変わったようなところはあります。有名な曲だからこそ、どういう音がこのフレーズの中で1番魅力的なのか、というのを常に考えています。それから今メンデルスゾーンに特に感じてるのは、この曲自体の情熱的でありながら彼の持つ繊細さ。とてもきめ細やかな日本人的な、心の機微が繊細だった人なんじゃないかなと思うんです。大きな視点でみると私はメンデルスゾーンをやるときに、巨大な室内楽をするつもりでいつもやっていて、それを心がけるととてもオーケストレーションも魅力的であることに気づきます。それが1番大きな変化かなと思います。
A.下野:共演回数は実はそんなに多くはないんです。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を読売日本交響楽団でご一緒したのが初めてで、鮮烈な記憶です。その時14歳だったと聞いてびっくりしました。ご自身のお言葉だったり振る舞いで、しっかり歩んでらっしゃるなという印象です。今回は九州をずっと皆さんと回ることで、毎回毎回いろんな変化があるんじゃないかなと期待しています。多分言葉を交わさずとも、10年のここまでのキャリアでいろんな経験を積まれ、こういうメンデルスゾーンっていうのをきっと投げてくださる。こちらはこちらでドーンと構えて音楽で対話していこうと思います。