宮嶋 極音楽ジャーナリスト/毎日クラシックナビ主宰
2016年から日本フィルの首席指揮者を務めてきたピエタリ・インキネンが、今年夏、ワーグナー作品上演の総本山とされるドイツ・バイロイト音楽祭で、楽劇4作からなる大作「ニーベルングの指環(リング)」ツィクルス上演の指揮を担当し、各公演の終演後には毎回盛大な喝采を集めるなどの活躍ぶりをみせた。
今年上演された「リング」はオーストリア出身の新進演出家バレンティン・シュヴァルツによる前衛的な読み替え演出のプロダクション。2020年にプレミエされる予定だったが、新型コロナウイルスのパンデミックによって音楽祭自体が中止となり、昨年、ようやく初お目見えとなった。
20年から指揮するはずだったインキネンだが、21年に行われた「ワルキューレ」のセミ・ステージ上演は指揮したものの、昨年は体調不良のため音楽祭開幕直前に降板。(代わってコルネリウス・マイスターが指揮をした)今年、満を持しての「リング」全曲の指揮となった。
奇をてらうことなく誠実に作品に向き合うインキネンの音楽作りは〝ウルサ型〟が多いバイロイトの観客・聴衆にも受け入れられたようで、筆者が取材した第2ツィクルス(8月5日~10日)でも序夜「ラインの黄金」の終演後から連日、カーテンコールでインキネンが登場すると客席からは盛大な喝采とバイロイト名物である木の床を踏み鳴らす〝賛辞〟が沸き起こった。さらにトマス・コニエチュニー(ヴォータン)ら歌手陣もステージ上でインキネンに向かって拍手をし、握手を求めるなど出演者からも支持を得ていることが窺えた。
筆者は20年にわたってバイロイト音楽祭を取材してきたが、過去には指揮者に対しても容赦のないブーイングが浴びせられ、その後のキャリアに傷を残すこととなった例をいくつか目撃してきた。また逆にキリル・ペトレンコのようにバイロイトでの大成功がジャンピングボードとなって一気にベルリン・フィル首席指揮者に昇りつめたケースもあった。その意味では一定の成功を収めたインキネンの未来がさらに拓けていく可能性も大きい。インキネンはバイロイト開幕直前に行った筆者のメール・インタビューの中で、首席指揮者退任後の日本フィルとの共演を楽しみにしている旨を語っていた。バイロイトでひと回り大きくなったインキネンと日本フィルの再会を楽しみにしたい。
詳しいレビューは後日、毎日クラシックナビに掲載されます。