聞き手:小室敬幸
―山田さんが日本フィルと初共演したのは2007年の10月で、その5年後には正指揮者に就任。そこから更に10年が経ったわけですが、15年間共演を重ねてきた日本フィルは、山田さんにとってどのような存在ですか?
振り返ってみると、日本フィルとしか出来ないプログラムを沢山させてもらいました。でもそれは僕のアイデアだけでなく、企画制作部長の益満さん(僕と同郷の神奈川県秦野市出身!)との強いタッグで生まれてきたんです。曲決めのコミュニケーションからして面白くて(笑)。僕が提案することもあれば、益満さんが言うならと全面的に受け入れたこともありました。 僕にとっても、オーケストラにとっても初挑戦の曲やさまざまな企画にいっぱい取り組んできたので、一緒にチャレンジできるオーケストラだと思っています。様々な挑戦を通じて何事も一緒に成長できる間柄。ある意味、戦友のようにも感じています。 もうひとつ大事なのは、日本フィルには地名ではなく国の名前が付いているということ。国立ではないけれど日本フィル、ジャパン・フィルであるわけですから、日本の作品を取り上げる意味はとても大きい。それは創立指揮者である渡邉暁雄先生の思いでもあり、だからこそ1958年から始まった日本フィル・シリーズ(日本人作曲家への新作委嘱シリーズ)がいまだに継続しているわけですから。
―日本フィルとの取り組む次の挑戦といえるのが、9月の演奏会における貴志康一(1909~1937)のヴァイオリン協奏曲ですね。1935年に完成した日本人初のヴァイオリン協奏曲とされる、非常にロマンティックで抒情的な旋律が美しい作品です。
彼の名前はもちろん知っていたんですが、作品を指揮するのは初めてなんですよ。これは日本史上に残る名曲のひとつといって間違いないです! 分かりやすいシンプルな旋律と多彩なサウンドが共存しているのが実に魅力的ですね。西洋の書法のなかで日本的な香りを醸し出しているので、きっとお客さんの心にもダイレクトに届くと思いますよ。今回、ソロを弾くのは(日本フィルのコンマスである)田野倉さんなんですけれど、2019年には間宮芳生さんのヴァイオリン協奏曲で素晴らしい演奏を聴かせてくれたので、その時に勝るとも劣らない熱量を期待しています。
―後半は、合唱入りの「ベルシャザールの饗宴」が最近日本でも度々演奏されているイギリスの作曲家ウィリアム・ウォルトン(1902~1983)。彼の交響曲第1番が取り上げられますが、貴志康一のヴァイオリン協奏曲と同じく1935年に完成した作品なんですね。
それこそ、これは益満さんから10年ぐらい前から薦められていた作品なんです。でも、めちゃくちゃ難しくて、指揮者もオーケストラもとても大変なので、おいそれとやりましょうと言えなかった。それを何故、このタイミングで取り上げることにしたかといえば、やはりイギリスのバーミンガム市交響楽団で2023年4月から首席指揮者とアーティスティックアドバイザーを引き受けることになったことが大きいですね。それで、イギリス音楽にも腰を据えて向き合おうという覚悟が固まった訳です。ウォルトンもこれまでは短めの曲しか取り上げたことがなかったので、今回の交響曲第1番の演奏は大きなチャレンジになります。ウォルトンは短調でも音色が暗くなりすぎないというか、カラッとしたサウンドが特徴で、英国紳士の振る舞いじゃないけど、どんな時であろうとも高貴さが感じられるのが魅力ですね。この交響曲を通して、宝石が散りばめられた万華鏡のまばゆいほどの輝きに包まれるような音の洪水に身を浸していただけたらと思います。 サントリーホール 2022年9月2日(金)19:00開演 プレトーク 18:30~ 3日(土)14:00開演 プレトーク 13:20~ 両日ともプレトークあり! ※9月東京定期演奏会のプログラムでは正指揮者10年間を振り返ります。お楽しみに!