【第45回九州公演 日本フィル in Kyushu 2020】記者会見レポート

【第45回九州公演 日本フィル in Kyushu 2020】記者会見レポート

2019年10月30日(水) 杉並公会堂大ホール

登壇者

アレクサンドル・ラザレフ(桂冠指揮者兼芸術顧問)
堀米ゆず子(ヴァイオリン)
河村尚子(ピアノ)
平井俊邦(日本フィル理事長)
小賀明子(通訳)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平井:九州公演は、本来は九州で記者会見をする、というのが習わしなのですが、ちょうど45年ということもあり、初めて東京で開きます。なかなか今まで九州公演の中身を東京でお話しするという機会はなかったのですが、良い機会ですので、皆様にぜひ日本フィルが続けてきたこの伝統的な九州公演をご理解いただけたらと思っております。

九州公演は、九州全県で行います。県庁所在地プラス3か所(小倉、大牟田、唐津)。この全県をフル・オーケストラで回る。今年はちょうど45年を迎えることになりました。アレクサンドル・ラザレフ指揮のもと、堀米ゆず子さん、河村尚子さんの豪華メンバーとオーケストラで乗り込んでいこうと思います。少し他と違うのは、手作りのライブ・コンサートであるということです。地元に実行委員会がありまして、それぞれ1年前から準備を始めて、企画、チラシ作成、チケット販売まで地元のボランティアの人たちと日本フィルが一緒になって作っているというものです。これはたぶん、そう日本であるものではない。そしてこれが10か所で行われ、45年続いているというのが特徴であります。文化庁に行って、これは大変な「文化財」ではないか、といったところ、「文化財というのはあまり気安く使わないでください」と言われましたが(笑)これだけ地元の人たちと一緒になって作っていくオーケストラ・コンサートというのはほかにあるのだろうかと。1公演くらいはできますが、毎年10公演、45年続いているというところに特徴があるのだと思います。

そしてこのオーケストラ公演は絶え間なく続いてきているのですが、それだけでなく、オーケストラに来られない方々にも聴いていただけるように、室内楽をだいたい40回~50回程度行っております。病院に行ったり、学校に行ったり、施設に行ったり、お寺や教会に行ったり。なかなかコンサートに来られない方々に対してどうやって手を差し伸べられるか、ということを考えて行っています。

九州公演は、日本フィルが本当に苦しかった時に、九州の方々が日本フィルを助けよう、と呼んでいただいたのが一つの大きなスタートです。その頃は本当に日本フィルはお金がなかったので泊るところもありませんでした。そういう中で分宿をして、民泊をしていただきました。支えていただいて、演奏をして、演奏料をあげようと。

こういうような非常にありがたい状況がありました。そこから発展して、今のような形で日本フィルと地域のボランティアの方々が、1年間かけて作るというものです。したがって、当日ももぎりからすべて地元の方々がやっています。そして終わった後に、1年間の総決算でオーケストラのメンバーと地元の方々が交流をします。我々は1年間のご苦労に報いるようにお礼を申し上げ、地元の方々はよく来た、とまた来年も来いよ、と。

我々の楽団長は、「来年もまいります。ぜひおいでください。しかし九州には九州交響楽団があるので、毎月のコンサートは九州交響楽団に行ってください。年に1回は日本フィルに来てください」というお話をして、毎回公演の最後を締めくくっています。

日本フィルにとっては、これは九州公演だけのものではなくて、きわめて大切なオーケストラ活動と音楽活動の原点なのではないかと考えております。今音楽団体は、コンサート・ホールに行って、ただいい演奏すればいいというわけではありません。もちろんいい演奏をしなければいけないのですが、それだけでは音楽団体としての使命を果たしているといえるのか、というのが我々に突き付けられている課題だと思っております。

10年以上私も見ていますが、社会からのオーケストラに対する要求、要請がずいぶん変わってきたなと思います。芸術性は追及をしてくれと。それだけではなく社会の要請はどんどん広まっています。オーケストラは答えていかなければいけないという時代が来ているのではないかとひしひしと感じます。九州公演を45周年続けてきていることで、人々とどう交わっていけるか、コミュニティとどのように接触していくか、というような課題をいつも突き付けられています。これに応えていく必要がある、というのを九州公演から学んでいます。その結果、社会からの様々な要請に対して応えるだけの技術力も上げつつ、感度も上げなければいけない。そしてそれを実行しなければいけない、ということを我々はやっているわけです。そういうわけで、音楽活動の原点というのは九州公演にあると思っています。実は、なかなか採算が悪いので、就任当初はやめた方が良いのではないかと言ったところ、皆様に怒られまして。実際に一緒に回ってみるととても意味のあることをやっているんだな、このような大事なこと、ぱっと見ただけではわからない。やはりこれをぜひ皆さんの手でしっかりと育てていただければと思っております。

九州公演で我々が得たものは、人の心の温かさ、人に寄り添っていく大事さ、こういったものを日本フィルは体感してものにしてきたのではないかと。それが日本フィルのひとつの大きなカラーになってきたのではないかと。

そして、九州公演は今45年です。なんとしても50周年を迎えようと、実行委員ととにかくやろう!と張り切っています。皆さんのご理解、ご支援を得ていきたいと思います。応援をしていただきたいです。これだけの音楽活動、文化活動というのはそうない。これを絶やさないようにして、もっともっと栄えるようにしていく必要があるのではないかと。これが音楽団体の使命ではないかと思っています。

 

3回目の九州公演

ラザレフ:皆さんこんにちは。これまでいろいろな街を旅してきました。その中でも日本フィルとの九州公演は非常に印象深いものになっています。とても暖かく皆さん私たちを迎えてくださる。とても美しい街が多いですね。今回の九州公演は宮崎スタートだと聞いています。なんときれいな街なんでしょう。海(日向灘)もきれい。音楽を聴くどころか、海をずっと眺めていたいぐらい、美しい場所です。本当にきれいです。宮崎に前回行ったときにここにずっといたいな、と思ったのをとてもよく覚えています。モスクワにも帰りたくないなと思いました。本当にきれいな場所でした。また宮崎を再訪できるということをとても楽しみにしています。アクロス福岡、なんと素晴らしいホールなんでしょう。なんて立派なシャンデリアなんでしょう。ステージで指揮をしながら、ちょうどソリストがカデンツァを弾いているときに、シャンデリアに目を奪われて、なんてきれいなシャンデリアなんだろうとカデンツァの間中、ずっと目を奪われていました。実はモスクワ郊外に大きな家があるのですが、とってもきれいな家なんです。イタリアのムラーノ製のとっても素敵なシャンデリアがうちにもあるのですが、ヴェネツィアの素晴らしいシャンデリアなんですが…本当に小さい。あんなシャンデリアが欲しいなあ……、でもちょっと持っていくわけにもいかないし。ソリストがちょうどカデンツァが終わるころにオーケストラにinをしなければいけないので、私はずっとシャンデリアのことを考え続けていたかったのですが。結局アクロスのようなシャンデリアを私は見つけられていないのです。

ということで九州公演の素晴らしい様々な場所、いい思い出がたくさんあります。過去2回も素晴らしいソリストの方々との共演がありました。そして今回も素晴らしいお二人の方と共演できるということでとても楽しみにしています。また、毎回のコンサートの後に交流会があるのですが、地元の方々が本当においしいものを準備して待っていてくださる。一番おいしい明太子も九州にある。残念なのが、非常に公演数が多いので、交流会に行ってもお酒が飲めない。コンサート、コンサート、コンサート。それが唯一悲しいことでしょうか(注:マエストロは本番が終わるまでお酒を断たれます)。その他はすべて非常に楽しみ。指揮をするのをとても楽しみにしています。ありがとうございます。

 

音楽の根っこが同じ

堀米:2011年にシベリウスを演奏させていただきまして、その時に九州の会場のすばらしさ、どこに行っても素晴らしい会場があること。アクロス福岡のシャンデリア、覚えています(笑) 交流会も非常に印象深く覚えています。5月にちょうど長崎で演奏していたのですが、その時すでに来年のこの2月の公演に向けて実行委員の方々が働いておりました。本当に地元に根付いているんだなと思います。九州公演は45周年ですが、私も来年はちょうどエリザベートで獲ってから40周年になります。そしてベートーヴェンが生誕250年で、それでベートーヴェンがたくさん選ばれたのかな、と思っています。ラザレフ先生とは、ブルッフで(2015年6月東京定期演奏会で共演)音楽の根っこのところが同じような気がしていて、とても愛情のあふれる音楽づくりをしていただいたのが印象に残っています。共通の友人もおりますし、ベルキン先生(ヴァイオリニストのボリス・ベルキン氏 2020年5月の横浜定期演奏会で共演予定)とはマーストリヒト音楽院の同僚ですので、よくマエストロの話はしているんです。ヴァイオリン・コンチェルトの中でも、ベートーヴェンのコンチェルトというのは、“Theコンチェルト”というぐらいに、一番すごいコンチェルトなんですね。譜面面は簡単に見えるんですが、本番になって弾いてみないとわからない、ベートーヴェンにしかない怖さがあります。一音間違えてももう全然どうにもならないんです。ベートーヴェンとモーツァルトだけなんです、こういうのは落とし穴があるのは。でも本当に弾きごたえがありますし、歌う要素がありますし、いろいろファンタジーをもって弾きたいと思います。よろしくお願いいたします。

 

ユーモラスなマエストロ

河村:今回、また6年半ぶりにマエストロ・ラザレフと共演させていただけるということで、前回の九州ツアー以来なんですけれども。今回はブラームスのピアノ協奏曲第2番を弾かせていただきます。なぜこういう選曲になったかといいますと、初めてマエストロとご一緒したときに弾いた曲が、ブラームスのピアノ協奏曲第1番だったんですね。その時にたくさんのことを、音楽の雄大さ、そして流れを教えていただきました。今回のほとんど交響曲のような作品ですけれども、その曲をラザレフさんと日本フィルと一緒に共演できるのが嬉しい限りです。そして九州公演については、公演後の打ち上げパーティの皆様のエネルギーが。なんでしょう普通の打ち上げではない感じです。やはり地元の方々が1年間の準備をして待って、「待ってました!」という嬉しさと幸せがそこに弾けて、日本フィルが1年間経てまた帰ってきました!というそういう嬉しさもいつも感じられます。皆様のエネルギーと活気が、演奏会でも爆発するのですが、それ以上に打ち上げでも爆発するところが九州ツアーを支えているところの取柄でもあると思います。そしてラザレフさんがおっしゃいましたように、本当にきれいなリゾート地の宮崎であったり、温泉地の大分、おいしいものがたくさんある北九州であったり、私は今回3回、ブラームスの2番を演奏させていただけるのですが、こんなユーモラスなマエストロと熱心な日本フィルの方々と一緒に時間を過ごせるのが今から本当に楽しみです。皆様どうぞよろしくお願いいたします。

 

【質疑応答】

―――マエストロ・ラザレフに質問です。すでに2回九州公演をされていますが、マエストロからみて九州公演を経験することで、オーケストラの変化等があれば教えてください。

ラザレフ:やはりツアーといのはオーケストラのメンバーの団結力を高めます。お互いを知る絶好の機会です。長い時間を一緒に過ごすわけですから。それは日本フィルに限らず、ほかのオーケストラについても言えます。どのオーケストラにもやはり旅を一緒にするということでお互いを知る良い機会になるということです。やはりそれは大切なことです。オーケストラのメンバーと一言で片づけてしまいがちですが、一人一人がとても面白い個性を持った音楽家なわけです。例えば第1ヴァイオリン。16人いるわけですよね。私はいつも16人、第1ヴァイオリンという見方はしません。私もモスクワ音楽院を卒業したわけですが、私が様々な勉強、仕事の期間を経て日本フィルにたどり着いているわけですが、同じように日本フィルのメンバー一人ずつ、いろいろな歴史、経験をしながらこのオーケストラに集まってきているわけです。経てきた道が違います。もちろん東京の定期公演だけではメンバーそれぞれをなかなか知る機会がないのですが、九州に行くことでそれぞれのメンバーとより近しくなる可能性があります。やはりツアーに出ると割とみんなオープンな気持ちになります。それぞれとても才能のある音楽家です。そして私たちはその人たちを一人一人知る必要があります。

 

―――今回の選曲について、その理由などを教えてください。

平井:基本的には九州の実行委員の方々、九州でこれが聴きたい!というものを上げていただいて、マエストロに相談する形です。九州の方々が聴きたい!というプログラムになっています。

ラザレフ:ブラームスの交響曲第1番、ピアノ協奏曲第2番、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲もプロコフィエフの《ロメオとジュリエット》も大好きです(笑)

 

―――ラザレフ版という《ロメオとジュリエット》について、熱く語っていただけますか。

ラザレフ:プロコフィエフがもともとは作った組曲です。彼は《ロメオとジュリエット》で3つ組曲を作っています。第2組曲が一番人気があります。一番有名な曲たちが入っているからなんですね。その第2組曲は23分ぐらい。その第2組曲は「ジュリエットの墓の前のロミオ」で終わるんです。「ティボルトの死」なくしては、《ロメオとジュリエット》はあり得ない。みんな聞きたいと思います。問題は、「ジュリエットの墓の前のロメオ」でも「ティボルトの死」でもそのあとに続く曲というのはあまり思いつかないと思うんです。その2つの作品は、両極端ではありますが、やはりクライマックスになりえる曲だからです。「ジュリエットの墓の前のロメオ」で終わる場合はピアニッシモで終わるクライマックスです。その曲が終わった後は静寂が訪れる。「ティボルトの死」はフォルテッシモで終わるクライマックス。これをどのように組み立てようか。同じような難しさが、ボロディンの《イーゴリ公》でも出てきます。オペラは4幕で出てきます。第2幕が「ダッタン人の踊り」で終わります。ボロディンが作った曲の中で最も派手派手しいのが「ダッタン人の踊り」だと思います。ボロディン自身も言っています「第2幕の大きなクライマックス「ダッタン人の踊り」の後はみんな終わったと思って帰っちゃうだろう」。あのような派手派手な大きな「ダッタン人」の後に、さらに音楽を聴くというのはなかなか難しいことなんです。ということで私が一番頭を悩ませたところは、ピアニッシモで終わる「ジュリエットの墓の前のロメオ」から「ティボルトの死」の間にどういう曲を入れて、どうやってつないで組曲を作るか、ということです。《ロメオとジュリエット》の一番有名な、あの静寂の部分。とっても静かに終わる。そのあとに静寂から何か曲を入れながら、大きな「ティボルトの死」までもっていかなければいけません。というわけで私たちの組曲は全部で10曲。7曲目に「ジュリエットの墓の前のロメオ」があって、8曲目と9曲目は少しずつ盛り上がっていく。10曲目に「ティボルトの死」がきます。《ロメオとジュリエット》のストーリー的には話が全く位置が違います。ティボルトのほうがジュリエットより先に死んでいます。筋からすると位置が違います。でも、ストーリーから離れて音楽だけを考えていくと、悪くないものができていると思います。第2組曲は短すぎる。プロコフィエフが1938年にマリインスキー劇場でバレエの《ロメオとジュリエット》を初演したとき、ロミオとジュリエットを踊ったのが、ガリーナ・ウラノワとコンスタンティン・セルギエフでした。とても素晴らしい二人が踊りました。でもその主役二人をはじめ多くの人たちには音楽は気に入られなかった。チャイコフスキーの《白鳥の湖》に聴きなれていたからでしょうね。プロコフィエフは1938年当時はまだ受け入れられなかった。その話を私はボリショイ劇場で芸術監督をしているときに、初演を踊ったウラノワさん自身から聞きました。初演のリハーサル中、主役の二人が練習をしながら、なんという音楽なんだ、くだらない音楽だよね、という会話をしながら練習をしている。でも会場にプロコフィエフがいたんです。ステージ上で二人が話していたのですが、プロコフィエフは客席に座っていた。二人のぶつぶつ言っている声がプロコフィエフに聞こえてしまった。プロコフィエフは客席から怒鳴りました。「こんな馬鹿どもが踊るなんて思ってなかった!」そしてその主役は口を閉ざしました。

というわけで10曲やります。

 

―――ソリストの二人から見た日本フィルの持ち味など、今まで共演なさってどう思っているかなどお聞かせください。

堀米:何回も共演させていただいていますが、よく覚えているのが広上さんと共演したショスタコーヴィチ、ラザレフさんとのブルッフ、この間飯森さんとチャイコフスキーを共演いたしました。いつも本当にやりやすいオーケストラです。指揮者の方々が素晴らしいのもあります。今日めったに聴けないグラズノフのシンフォニーをちょっと聞かせていただいたのですが、掛け合いなど、はっきりしていていいな、と思いました。大変難しいですし、ずいぶん上手だなと思って聴いていました。

 

河村:私も何度も一緒に演奏させていただいているのですが、ルカーチ・エルヴィンとリストの協奏曲を弾いたり、ラザレフさんとラフマニノフの2番だったり、ブラームスの1番だったり、そして広上さんとベートーヴェンの4番。そして来週には小林研一郎先生とベートーヴェンの《皇帝》をご一緒するのですが、指揮者によってかなり変わると思います。皆さんとっても熱いと思います。指揮者の指示を聞いて、自分の演奏に出すというわけですが、とても熱意がこもっているオーケストラかなと思います。

写真:山口敦

 

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