2016年3月4日・5日東京定期演奏会プレトークレポート

掲載:2016/3/9

第678回東京定期演奏会(2016年3月4日・5日)にて、作曲の尾高惇忠氏と指揮の広上淳一氏を迎え、日本フィル企画・制作部長益滿行裕司会によるプレトークを行いました。
2日目のプレトークの模様をお届けします。(写真すべてⓒ山口敦)

益満:企画制作を担当している益満行裕と申します。
いつも裏にいるので、あまり表に立つようなことがございませんので、直接お礼を申し上げる機会がなくて、心苦しい限りなのですが、せっかくこのような機会をいただきましたので、毎回定期演奏会にお越しいただきまして、本当にありがとうございます。今後ともよろしくお願い申し上げます。ありがとうございます。
今日のコンサートですが、3曲ご用意ございます。
1曲目が、シューベルトの未完成。3曲目がベートーヴェンの運命という、ひところのLPで言えばA面とB面のようなゴールデンコンビのプログラムをあえて組みまして、真ん中に尾高惇忠先生のピアノ協奏曲という今回初演となる曲をラインアップいたしました。このピアノ協奏曲は、日本フィルが創立以来培ってきました、渡邉曉雄先生が作られた、日本フィル・シリーズという邦人委嘱作品シリーズの一環です。なんと10年ぶりの新作となります。昨日も演奏会ございましたけれども、非常に盛り上がりましたので、皆様も今日これからご期待いただければと思います。では、早速ですが、今日はこのピアノ協奏曲を焦点にお話を進めていきたいと思います。作曲の尾高惇忠先生と指揮の広上淳一マエストロのお二人にご登場いただきたいと思います。
広上:おはようございます。
尾高:こんにちは、どうも。
益満:では早速ですけれども。
広上:益満ちゃん、しゃべるのうまいじゃない。
益満:ありがとうございます。
広上:慣れてるね。
益満:不慣れなもので。ごめんなさい。
広上:僕らを前に緊張しちゃって。
益満:鍛えられております。さて。マエストロから今日のコンサートのプログラミングのコンセプトをお話しいただけると。
広上:我が国の、別に国を批判するわけではないのですが、どうしても現代作曲家のシリーズということだと、その先生たちの現代音楽ばかりを集めて、現代音楽のコアなファンの方たちだけ、その方たちグループだけのコンサートを作ってしまうという傾向がわが国では強い。だけど、私が一番指揮者をやっていて疑問に思っていたのは、もっと一般の人たちに、現代生きている作曲家の作品がこんなに素敵なものなんだということをもっと。食わず嫌いのお客様もいらっしゃるじゃないですか。私たちが普段レストランに行って。益満さん、どんなレストランが好きなの?
益満:蒲田の中華とか。
広上:ああ、こないだ行ったね。中華料理とかイタリア料理とか、日本料理とかに行くときにですね、目の前によくわからない料理を出された時、ドキッとするじゃない。食べてみてすごくおいしかった。あれなに?って聞くと「蛇の姿煮」とかね。普段ドキッとするようなときでも、食べてみるとすごくおいしいって場合、ありますよね。最初からもし、あ、先生の作品が蛇の姿煮って言ってるわけじゃないですよ!ようするに、写真を見てうっと思ってしまうような演奏会の作り方じゃないようにしたい。というのが一番の目的で。少しでも素晴らしい作品を普通にお客様に聴いていただきたいというのがありまして、前半と後半にシューベルトとベートーヴェンを並べました。
益満:ありがとうございます。作曲家として尾高先生はこの並びについては。
尾高:それはもうね、今マエストロがおっしゃったようなことが実現できてね、もう素晴らしいことだと思います。大体、僕も時々いろいろなオケが何をやっているか一年間の年間スケジュールを眺めるとすごく少ないんだよね。現代の邦人作品も少ないし、昔の邦人作品も少ないし。それからあとは外国の新作も少ないよね。
広上:特別なフェスティバルでもない限りね。なかなか。
尾高:うん。今はなしているのは、ごく一般の定期とかの中にね。その定期とか、一般の音楽ファンの方々がもっともっと親しんでいただける形が作られたらいいな、といつもいつも思っていますし、もちろん現代音楽でわからないのもあるだろうし、たまにはいいのもあるだろうし。そういういう中ではありますけど、これは益満さんにお願いしたほうがいいのかな、広上さんもだけど。そういうことが増えていくように。現代の作曲家たちもそうあるように、ということを少しは考えています。
広上:やはりコラボレーションがね、うまくいけば今日のようなプログラミングも実現できるでしょうし。昨日もお客様にすごく喜んでいただきましたし、今日こうやって来ていただいているお客様も絶対満足するような演奏会にしたいな、と思っております。
尾高:よろしくお願いいたします。
益満:ありがとうございます。それで今回ピアノ協奏曲を初演する運びになったのですけれども。まず、作品のお話に入る前に、先生と広上マエストロのつながりというのをお話しいただければと思うのですが。

広上:あの、
尾高:腐れ縁みたいなこと?
広上:(笑)僕は不肖の弟子だったですよ。
尾高:そんなことないですよ(笑)
広上:いやいや。できの悪い、いわゆる音楽学校に、音楽家になりたいと決めまして。
尾高:最初に家にみえたときに、今まで聴いたこともないような、
広上:変なピアノを弾いた
尾高:いやいやモーツァルトを弾いたの。普通の概念で聴くと変なの。だけどもね、あとから考えると、今の広上さんのなんかがあの時すでにあったんだろうね。と思ってます。この歳になって改めて。
広上:お世話になったんです。学生時代の受験期のころの、最初の音楽を教わった師匠ですね。やっと少しはね、不肖の弟子ですけども恩返しができるかなと思った演奏会がこれでして。またピアノを弾いてくれる野田清隆さんというのは、僕から15年ぐらい後輩なのですが、非常に優秀な方です。実は今日会場にお見えになっていますけれども、先生や私や野田さんを最初に発見というか、見つけて育てていただいた恩師にも来ていただいておりまして。あんまりねこう個人的な関係で音楽会をやってはいけないんですけれども。たまにはこういう形でね。私たちにしてみると強い絆で結ばれておりますので、今大河ドラマでやっている真田丸、真田3代みたいなね。
尾高:それはやっちゃいけないよ。
広上:そうですね(笑)僕真ん中だから、腹黒い昌幸で(笑)
益満:そういった巡り合いが重なった稀有なコンサートだと思うのですが。早速今回の曲目についてお話しいただきたいと思います。昨日、初演で聴かせていただきましたが、3楽章形式になっておりまして、だいたい30分ぐらいかかる非常に大作でいらっしゃいます。
尾高:いやいやそれは、昨日益満さんが計ってくださったんですよね。僕自身ではよくわからないです。
益満:各楽章10分ぐらいの作品です。ただ21世紀以降日本人の書かれた作品で30分の時間を要するピアノ協奏曲って正直そうはないんじゃないかなと思います。
尾高:長きゃいいってもんじゃない(笑)
益満:いえいえ。本当に非常に大作で。
広上:やっぱり先生はこの曲を書くときのイメージとかインスピレーションとか。最初から1楽章からお書きになったんですか?3楽章とか2楽章の断片から、こう色々広げていく形なんですか?
尾高:変な話がね。今日弾いてくれる野田さんがね、10年ぐらい前かな、僕のピアノソナタっていうのを弾いてくれて。その演奏が素晴らしくてね。そのあと彼と話しているうちに、酔っぱらった勢いかなんかでピアノコンチェルトも書いてみようか、あ、やりなさいよ、みたいな感じで。
広上:勧められた
尾高:勧めてもらったんです。それが具体的にはやっぱり書こうかな、という。以前から僕はピアノが大好きだから、どこかで一つはピアノ協奏曲を書きたいなと思っていたんですけども。
広上:先生ご自身、素晴らしいピアニストだから。
尾高:そんなことないです。
益満:CDも出されていらっしゃる。
尾高:そんなことないですよ。
広上:ただ、初めてですよね。ピアノコンチェルト。
尾高:それでね、ピアノソナタって言ったのは3楽章なんです。以前にはね、いまどき3楽章なんかね意味があるか、みたいな。少ないでしょ?世の中にね。そういう気持ちがあったんだけども、ピアノソナタを書いてから、ある意味古典的な3楽章というものが改めて素敵なものに思えてきて。だから今度のピアノコンチェルトもできれば3楽章にしたいと。だけど作曲中はね、いい加減なもんで途中まで来て、先どうしようかな、困っちゃったな、ああでもない、こうでもないと考えて、ひょこひょこっとあるモチーフが出てきて、だけどなんかしっくりこないのね。なんかしっくりこないよってそれを横に置いて、また一生懸命探す。その結果出てきたのが一楽章の困った、詰まった先なんだけど。変だなこの動き、でもなんかあんまり品はないんだけど、好き。っていうのがあって、それが後から考えると3楽章の冒頭になってる。ある意味じゃ、さっき広上君が言ったように、いろんなところで順番に出てくれればありがたいんだけど、今回の場合だと一楽章の詰まったところに最初に出てきたものは、3楽章の頭になってる。
広上:やっぱりベートーヴェン先生と同じで、いろんな場所の断片から分裂をさせていってったものが、結果的に楽章の一つの楽曲になってる。
尾高:ベートーヴェン先生というのはそういう方ですか。
広上:やっぱり別に1楽章から書いていたわけじゃないみたいですね。スケッチがあって、ぐちゃぐちゃになっているものが、だんだん整理されて。
尾高:いろんな方がいると思うけどね。なんでそんなにいろんなこと知っているの?
広上:いや知りませんよ。大したことはないんですが。
尾高:いや、モーツァルトさんなんて割とさーって書かれたって聞いてるけども、そうでもないの?
広上:そうでもないみたいですよ。やっぱり彼も相当努力していろいろなスケッチを書いていたんですが、奥さんが隠していたというか、どこかへ閉まっていたみたいですね。天才だったというのは、伝記作家が作った嘘ですね。
尾高:こういう話聞いてると面白いね。
益満:面白いですね。
尾高:もっともっと聞かせて。
広上:世の中嘘ばっかりですから。
益満:先生の書かれた曲、日本語はもちろんピアノ協奏曲なんですけれども。お手元のプログラムにも書いてありますが、Concerto for piano and Orchestraではなくてフランス語表記で書いていらっしゃる。もちろん先生がフランスで学ばれたということもあると思いますが。
尾高:フランス語堪能であるわけでもなんでもないんですけどね。ただフランスにいて勉強したもんだから、タイトル表記はフランス語にしてるわけです。
益満:響きはフランス風なところもありますけれども。ただ、今おっしゃったように、3楽章の頭のモチーフなどは、後半で演奏する運命のタタタターンのモチーフのように、形がしっかりと構築されているな、と私などは素人ながら思うのですがいかがでしょうか。
広上:昨日ね、正直言って後半ベートーヴェンでしょ。先生の作品終わったらね、休憩から帰ろうかと思った。疲れて。すごいエネルギーの作品で。また野田さんが素晴らしい演奏をされて。もうね、ふらふらになっちゃいましたね。後半はもう指揮者なしでも出来上がってますから。やってもらおうかな、と楽屋で冗談言ってたんですけども。それぐらい強い、我々演奏する側からいうと、強い動機づけのエネルギーがそのまま止まらずに動いているような音楽。
尾高:要するに、一言でいうと、くどい。
広上:いやいや、くどいとかそういうことではなくて、強い何か鼓動を燃やし続けているような感じです。2楽章は全く違う。幻想の世界。1楽章はいろんなものの混在があって、そこから何かマグマみたいなものが登場してくるという風に、いろいろな解釈があると思うんですけれども、楽しんで聴いていただけると思います。
尾高:もし本当に楽しんで聴いていただけたらそれほど嬉しいことはありません。どうぞよろしくお願いいたします。
益満:このプレトークの後は、また休憩中に、私このスコアを持ってぶらぶらとロビーを歩いておりますので、もしお声掛けいただければ是非ご覧いただけるようにします。もう先生のご許可はいただきましたので。
尾高:恥ずかしいけどありがたいことですので。ご覧いただければうれしいです。
広上:作曲家の立場からすると、こういう設計図をお書きになって、でも実際に今回みたいに音が鳴ると、あ、予定通りとか、あ、こうか、とか違う感じとかありますか?あ、俺の書いたとおりの音がする、とか。
尾高:まずね、ちょっと離れるけど。設計図って言ったでしょ?それで僕の芸大時代の師匠が池内友次郎と申しますけれども。設計図を書いてらっしゃい、まず。で一度か二度書いて、その通りに音が動き出すなんてなんないの。全然そっぽいっちゃって。設計図というのはまず意味がないと僕は思って。だって初めに全部見えてれば設計図になるけどさ。途中まで行って、さっき話したように3楽章に行くテーマが1楽章に出てきちゃったりするわけでしょ。そういう意味で言うと、行き当たりばったりというか、だんだん進んでいく感じ。それでうちの親父(尾高尚忠)がやっぱり作曲をしてましてね。うちの親父がどこかで同じこと言ってるんですよ。最近なんかで読んだんだけどね。世の中にはお利口な方がいて、もうすべて見通せちゃってる。それで書いていける。だけど自分はあるところまで行って止まってしまったら、ただそこで悶えていて、そのうちに出てくるのを待つほかない。変なところだけ親父に似たなと思うんですけどね。それでさっき仰ったどんな風な音がするかな、というのは、とってもある意味じゃ図々しいけども、割といつもオケで鳴らしてもらうとね、あ、思った音がすることがね。思ったよりいい音がする、とかね。おめでたいのかな(笑)だってさ、よく、実際の音を聴いたら頭抱えて、っていう人いるでしょ。
益満:はい。正直な話(笑)
尾高:だからおめでたいんですね。
広上:やっぱり、レシピをね、作曲家の方は作られるけども、レシピがないと我々料理人というはどうしようもないけれども。ただそのレシピが出来上がった段階でシェフが料理すると。
尾高:スコアというのはレシピでしょ?だからレシピまではちゃんと作りますよ。
広上:レシピを作るというのは、我々からするとすごいことだと思います。あとは今度は我々の仕事で。それをいかに実際にお客様にこの場に来ていただいて、お客様に喜んでいただける演奏ができるかというのが、この料理人の仕事になってくるわけです。毎回、昨日と今日でも違うし、もしかしたらまたハプニングがあるかもしれないし。昨日はちょっと僕振り間違えちゃったし。
益満:言わなきゃわからないですよ(笑)
広上:そんなハプニングがあることも、生の演奏の楽しさだし、お客様もわくわくする。もしハプニングが嫌いならばCDを聴けばいいんです。カップヌードルですね。カップヌードルがほしいって方もいらっしゃるし、僕も好きですけど、あれ毎日食べてたら病気になりますよ。3分間で必ず同じ味を提供してくれるのがCDです。なぜなら僕らも間違いがないように何度も。
尾高:でもそれは3分だよ。結局ね。音楽っていうものの3分ですね。
広上:だから今日のこの場にいらっしゃるお客様しか味わえないのが、この生演奏の喜びだと思います。
益満:ありがとうございます。その通りです。
尾高:レシピはいいけども、料理人が・・・。
益満:シェフの腕次第ということですね。

尾高:その逆もあるわけで。曲はひでえけどさ、なんだか何とかなるっていう(笑)

益満:(笑)そろそろメインディッシュの準備にかからないといけないということで。プレトークはこの辺で。ありがとうございました。作曲家の尾高惇忠先生と指揮の広上淳一マエストロでした。

広上:ありがとうございました。
尾高:ありがとうございました。
益満:ありがとうございました。

 

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★今回世界初演されました尾高惇忠「ピアノ協奏曲」が、7月の札幌交響楽団定期演奏会でも演奏されます!詳細はこちら(札幌交響楽団ホームページ)